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映画『チリ33人 希望の軌跡』はどこまで実話なのかThe 33を史実と比較

映画『チリ33人 希望の軌跡』はどこまで実話なのか|The 33を史実と比較

鉱山事故・救助

地下約700m。

残されたわずかな食料。

33人の対立。

地上で救助を求め続ける家族。

岩盤を掘り続ける救助チーム。

そして、細いFénixカプセルによる全員救出。

2015年の映画

『The 33』

日本題

『チリ33人 希望の軌跡』

は、2010年のサンホセ鉱山事故を一本の劇映画として再構成した作品である。

アントニオ・バンデラスがマリオ・セプルベダを演じ、ジュリエット・ビノシュ、ロドリゴ・サントロ、ガブリエル・バーンらが出演した。

上映時間は約127分。

一方、実際の事故から救出までは69日

その間に、

事故。

17日間の孤立。

複数の探査孔。

補給システム。

医療管理。

NASAによる助言。

Plan A・B・C。

Fénix 2の設計。

約23時間の最終救出。

という膨大な出来事があった。

それを2時間あまりへ収めれば、当然、すべてをそのまま再現することはできない。

では映画は、

どこまで実話なのか。

CASE32最終回では、これまで9回で確認してきたチリ政府、Codelco、NASA、公的記録と映画の描写を照合する。


CASE FILE 32|チリ鉱山33人救出 2010(全10回)

  1. 第1回|チリ鉱山33人救出とは?
  2. 第2回|なぜサンホセ鉱山は崩落したのか
  3. 第3回|生存確認までの17日間
  4. 第4回|どうやって地下の33人を見つけたのか
  5. 第5回|地上と地下をどうつないだのか
  6. 第6回|33人の出口をどう掘ったのか
  7. 第7回|Fénix 2はどう設計されたのか
  8. 第8回|33人はどう地上へ戻ったのか
  9. 第9回|救出成功のあと何が問われたのか
  10. 第10回|映画『チリ33人 希望の軌跡』はどこまで実話なのか|The 33を史実と比較【現在の記事】

先に結論|事件の「骨格」はかなり史実に近い。ただし人物と危機は大きく再構成されている

映画『The 33』を一言で評価するなら、

「大事件の時系列と主要な出来事は実話だが、その内部で起きる人物関係や個別の危機には映画用の再構成がかなり入っている」

となる。

映画の要素 判定
2010年8月5日のサンホセ鉱山崩落 史実
33人全員が地下で生存 史実
17日間、地上と連絡できなかった 史実
極端に少ない食料を配給した 史実
「Estamos bien」のメモ 史実
家族が鉱山周辺に集まった 史実
政府が救出へ本格介入した 史実
複数の掘削方法による救出 史実。ただし映画では大幅圧縮
Fénixによる一人ずつの救出 史実
マリオ・セプルベダが33人全体の中心的リーダー 映画向けに単純化
家族・政府関係者の一部の対立場面 脚色あり
救出中にFénixが鉱夫を乗せたまま停止する 映画上の危機演出

映画は完全なフィクションではない。

むしろ、

実際にあった69日間を理解する入口としてはかなり強い。

ただし、

「映画のシーン=そのまま一次資料で確認できる出来事」

ではない。

そもそも映画は「33人全員」を描こうとしていない

この映画の脚色を考えるうえで、監督パトリシア・リゲン自身の説明が重要である。

リゲンは制作前に、

33人全員へ個別にインタビューした。

家族や救出関係者にも取材している。

しかし33人それぞれに別々の物語がある。

それを127分ですべて描けば、人物紹介だけで映画が終わってしまう。

そこで制作側は、

33人の経験を、およそ10人の主要人物へ集約する

方法を取った。

つまり最初から、

ドキュメンタリーではなく、実在人物を中心にした劇映画として再構成されている。

マリオ・セプルベダは本当に「33人のリーダー」だったのか

映画で最も目立つ人物は、アントニオ・バンデラス演じる

マリオ・セプルベダ

である。

地下で人々をまとめ、食料を管理し、対立を抑え、33人の中心人物として描かれる。

実在のマリオ・セプルベダも非常に存在感の強い人物だった。

地上との映像通信が始まると、明るく話しながら地下を案内し、

「Super Mario」

として世界的に知られるようになった。

ただし、

33人の公式なシフト責任者はルイス・ウルスアだった。

事故直後から33人の所在確認、食料管理、地下組織、地上との連絡などにおいて中心的役割を担っている。

実際の地下集団は、

ウルスア。

セプルベダ。

ホセ・エンリケス。

ヨニー・バリオス。

その他の作業員。

と、それぞれ異なる役割を持つ集団だった。

映画はそれを分かりやすくするため、

マリオ・セプルベダへ「主人公」と「集団の象徴」という役割を集中的に持たせている。

FACT CHECK|映画のマリオ・セプルベダは架空の人物?

人物そのものは実在する。

ただし映画上の「主人公としての役割」まで、現実の組織構造と完全に同じではない。

映画では観客が追いやすいよう、一人の人物へ地下側の物語を集中させている。

食料をめぐる争いは本当にあったのか

映画前半で重要な場面が、

残された食料をめぐる緊張

である。

これは事件そのものから完全に作られた設定ではない。

実際の33人は17日間、極端に少ない食料で生活した。

ツナ缶。

桃の缶詰。

ミルク。

その他わずかな非常食。

それを厳格に分けていた。

監督リゲンも後のインタビューで、

食料箱をめぐって何が起きたかについて、作業員本人たちから制作時に詳しく聞いたと説明している。

つまり、

飢餓と食料をめぐる緊張そのものには当事者証言の裏付けがある。

ただし映画内の、

誰が何を言った。

誰が誰と争った。

誰がどの瞬間に食料を奪おうとした。

といった具体的な会話・行動すべてを、公的資料から一対一で確認できるわけではない。

したがって、

状況は実話、個別シーンはドラマ化

と見るのが適切である。

映画の「最後の晩餐」のような場面は史実ではない

食料不足の中で、33人が豊かな料理を思い浮かべながら食卓を囲む幻想的なシーンがある。

これは映画として彼らの飢餓状態を可視化した演出である。

実際の地下でそのような食卓が現れたわけではない。

もちろん、飢餓状態の人間が食べ物を考えること自体は不自然ではない。

しかし映像として描かれる光景は、

心理状態を表現するための映画的演出

と考えるべきである。

「Estamos bien」のメモは本物

映画の中でも重要な転換点になる、

「Estamos bien en el refugio los 33」

のメモ。

これは完全な史実である。

事故から17日後の2010年8月22日。

探査孔が33人のいる坑道区域へ到達した。

作業員ホセ・オヘダが、ノートの紙片へ赤いマーカーで文章を書いた。

それをドリルへ取り付け、地上へ送った。

紙そのものも現在まで保存されている。

チリの文化遺産機関によれば、

幅約8cm、長さ約22.2cm。

つまり映画の中でも最も象徴的な場面の一つは、

実在する歴史資料そのものを基にしている。

探査孔が何度も外れたのも史実

映画では、地上から掘られた探査孔が簡単には33人へ届かない。

これも事件の本質に近い。

実際には地下約700mの限られた坑道空間を地上から狙う必要があり、

孔の偏位。

不完全な坑内情報。

地質条件。

などによって複数の掘削が行われた。

その末に8月22日、探査孔10Bが33人のいる区域へ到達した。

ただし、

映画のように少人数の主要人物だけが一つの掘削を執念で成功させた、

というほど単純な作戦ではない。

実際には複数の掘削会社、鉱山技術者、測量・地質担当者などが動いていた。

アンドレ・スガレットが「もう捜索をやめる」と判断した?

映画では、ガブリエル・バーン演じる救出側技術者アンドレ・スガレットが、

33人へ到達する前に捜索継続をめぐって迷う、あるいは作業を打ち切ろうとするようなドラマが組み込まれている。

しかし当時の記録を見ると、

実際の救出チームは複数の探査孔を継続的に掘っていた。

チリ国内でも映画公開時、この「スガレットが捜索を断念しようとした」という描写は史実との差として指摘された。

つまりこれは、

地上側にも「諦めるか続けるか」という劇的対立を作るための脚色

と見る方がよい。

マリア・セゴビアは本当に鉱業相を平手打ちしたのか

映画ではジュリエット・ビノシュ演じる

マリア・セゴビア

が、ロドリゴ・サントロ演じる鉱業相

ローレンス・ゴルボーン

へ強く迫る。

予告編でも特に目立ったのが、

ゴルボーンを平手打ちする場面

だった。

しかしチリ国内の映画公開時にも検証されているように、

実際にマリア・セゴビアがゴルボーンを平手打ちした記録はない。

家族が政府へ強く救助を要求したこと自体は事実である。

マリア・セゴビアも、兄ダリオ・セゴビアの救出を求め続けた家族側の象徴的存在の一人だった。

しかし平手打ちは、

家族と行政の緊張を一本の場面へ凝縮した映画上の演出

である。

アレックス・ベガの妻は妊娠していなかった

映画では鉱夫アレックス・ベガと妻ジェシカの間に、

これから生まれる子どもをめぐる物語が組み込まれている。

しかし2010年の事故当時、

実在するアレックス・ベガの妻は妊娠していなかった。

これは明確な脚色である。

33人という大人数の家族関係をすべて描けないため、

「地下にいる夫」と「待つ家族」

の不安を表現するために追加された人物ドラマの一つと考えられる。

マリオ・ゴメスの「退職祝い」も脚色

映画序盤では、最年長クラスの鉱夫

マリオ・ゴメス

の退職を祝う場面が描かれる。

事故直前に、

「これが最後の仕事」

という状況を作れば、観客に人物を覚えてもらいやすい。

しかし実際のゴメスは長い鉱山経験を持っていたものの、

事故当時に退職直前だったわけではない。

チリ国内報道では、約51年の鉱山経験がありながら働き続ける意思を持っていたとされている。

これも人物背景を短時間で提示するための映画的整理である。

NASAの役割は、映画を見ると分かりにくい

実際の救出ではNASAも関わっている。

ただし、

NASAが救出作戦を指揮したわけではない。

チリ政府から要請を受け、

医療。

栄養。

心理。

閉鎖環境。

そして救出カプセルの要求仕様。

について技術的助言を行った。

NASAの4人の専門家が現地入りしたのは8月30日から9月5日。

映画では、こうした多組織の専門支援を個別にすべて説明することはしない。

そのため実際の救出を技術史として理解するなら、

映画よりも現実の方が、はるかに多くの専門組織が関わった分散型プロジェクトだった。

Plan A・B・Cは映画ではかなり圧縮されている

現実の救出で最も重要な技術的特徴の一つが、

Plan A・Plan B・Plan Cの三方式を並行して進めたこと

である。

Strata 950。

Schramm T-130。

RIG-421。

三つの異なる掘削方式を同時に動かした。

最終的にPlan Bが10月9日に地下622mへ貫通した。

映画にも救出坑掘削は登場する。

しかし、

なぜ三方式だったのか。

それぞれ何が違ったのか。

Plan Bが途中で故障していたこと。

Plan Cにも軌道問題があったこと。

といった工学的な冗長設計までは十分に描かれない。

ここは映画が間違っているというより、

技術工程を大幅に圧縮した部分

である。

Fénixは実在する。しかも映画より現実の方が複雑だった

映画終盤に登場する救出カプセルFénix。

もちろん実在する。

実際のFénix 2は、

高さ約4m級。

直径約53cm。

上下に格納式ローラー。

ハーネス。

酸素ボトル。

マイク。

スピーカー。

などを備えた鋼製カプセルだった。

さらに、

Fénix 1。

Fénix 2。

Fénix 3。

と複数のカプセルが存在し、

試験機・実運用機・バックアップという冗長性もあった。

この点でも、

現実の方が映画より「設備システム」として複雑だった。

映画ではFénixが空で地下へ到着する。現実は違う

実際の最終救出では、

最初にFénix 2へ乗ったのは33人ではない。

Codelcoの救助員

マヌエル・ゴンサレス

だった。

彼が地上から地下へ降り、

地下側で33人の救出準備を開始した。

その後、

フロレンシオ・アバロスが最初の作業員として地上へ上がった。

映画では演出上、この地下への救助員投入が簡略化されている。

しかし現実の運用では、

救出カプセルを地下側で安全に扱う人員を先に送り込む

という重要な工程だった。

Fénixが鉱夫を乗せたまま途中で止まった?

映画では終盤の緊張を高めるため、

Fénixが救出中に危険な状態になる場面が描かれる。

しかし実際の33人救出で、

鉱夫を乗せたFénix 2が孔内でスタックし、救出不能になりかけたという出来事は公式救出時系列にはない。

これは特に分かりやすい映画的脚色である。

ただし、

「途中でカプセルが止まる」

こと自体が非現実的な危険だったわけではない。

第7回で見たように、

NASA側もFénixが途中で動かなくなる故障モードを真剣に検討していた。

だからこそ、

ローラー。

酸素。

通信。

非常脱出。

といった対策が検討された。

つまり映画は、

実際に設計上想定されていた「起きるかもしれない事故」を、本番中に実際に起きた出来事としてドラマ化した

と見ることができる。

最初に救出されたのは誰か

史実で最初に地上へ戻った鉱夫は、

フロレンシオ・アバロス。

2010年10月13日午前0時10分ごろである。

彼が選ばれたのは、

身体状態が良く、

最初の実運用で問題が起きた場合にも状況を報告できる人物と評価されたためだった。

映画公開時のチリ国内検証では、

映画の救出人物・順序には史実との差がある

ことも指摘された。

33人の実際の救出順は、医学的状態と運用上の理由を考えて決められていた。

映画がほとんど描かなかったもの|地下の51日間の「運用」

映画では生存確認後、時間は一気に救出へ向かって進む。

しかし現実には、

8月22日の発見から10月13日の救出まで、

さらに約7週間

あった。

この間に行われたのは、

ただ待つことではない。

パロマによる物流。

段階的な再給餌。

水分管理。

尿検査。

簡易ベッド。

運動。

昼夜リズム。

通信。

家族との連絡。

光ファイバー。

換気・空気。

33人自身による作業分担。

これらが続けられていた。

映画ではテンポのため、この

「人間を51日間維持するシステム」

の大部分が省略または簡略化されている。

映画がほとんど描かなかったもの|救出作戦の「冗長性」

これまでCASE32で何度も出てきたのが、

バックアップを持たせる思想

だった。

探査孔を複数掘る。

Plan A・B・Cを並行させる。

Fénix 1・2・3を作る。

通信にもバックアップを持つ。

救出当日に光ファイバーが切れれば、電話線経由へ切り替える。

この構造は、映画の劇的な一本の物語とは相性がよくない。

映画では、

「一つの計画が成功するか失敗するか」

の方が分かりやすい。

しかし現実の救出で33人の生存確率を高めたのは、

一つの英雄的アイデアではなく、多数の代替手段を同時に持たせたこと

だった。

映画が薄くしたもの|事故前の安全管理

『The 33』は事故を起こした鉱山会社の安全管理に問題があったことを示す。

その方向性自体は史実から外れていない。

しかし実際の履歴はさらに複雑だった。

2007年の死亡事故。

操業停止。

2008年の再開。

換気や補強への指摘。

2009年の第二避難経路要求。

2010年7月の重大負傷事故。

そして8月5日の大崩落。

また問題は鉱山所有者だけではなく、

SERNAGEOMINによる監督体制

も後の議会調査・民事裁判で問われた。

映画では2時間の救出生還ドラマとして成立させるため、

この行政・規制・企業統治のSYSTEM部分はかなり圧縮されている。

映画の「家族が政府を動かした」はどこまで本当か

家族たちが鉱山周辺へ集まり、

作業員が生きていると信じ、

救助を求め続けたことは事実である。

鉱山近くには、

Campamento Esperanza――希望のキャンプ

と呼ばれる家族・関係者の拠点も形成された。

ただし映画では、

家族。

政府。

救助技術者。

という三者を対立させながら物語が進む。

現実には、

政府の介入。

家族からの圧力。

企業。

Codelco。

民間掘削会社。

軍・海軍。

医療チーム。

国際的専門家。

と、はるかに多くの主体が存在した。

映画はこれを、

観客が理解できる少数の人物関係へ整理している。

では映画は「史実を歪めた作品」なのか

そこまで単純には評価できない。

監督パトリシア・リゲンは33人全員へ取材し、

家族や救助関係者にも話を聞いている。

映画はHéctor Tobarの

『Deep Down Dark』

なども基礎資料として制作された。

つまり制作側は、

現実の出来事を無視して自由に物語を作ったわけではない。

問題は、

69日間・33人・数百人規模の救出作戦を127分へ変換する必要があったこと

である。

その変換によって、

  • 人物を統合する
  • 対立を一場面へ集約する
  • 時間を圧縮する
  • 技術工程を省略する
  • 実際には起きなかった危機を追加する

という映画的処理が入っている。

監督は「10人の主要人物」に物語を集約した

この点について、リゲン自身がかなり明確に説明している。

33人全員に物語がある。

一人ひとりが生存へ何かを提供した。

しかし一本の映画ですべては描けない。

そこで、

33人分の重要な要素を、約10人の中心人物へ分散させた。

したがって映画の登場人物について、

「この人が映画でやったことを、現実でもすべてこの人一人がやった」

と考えるとズレが生じる。

実際の33人自身も、映画への評価は一様ではない

監督リゲンは完成後、33人と家族へ映画を上映した際、

非常に肯定的な反応を受けたと振り返っている。

一方で、

救出から10年後のインタビューでは、

シフト責任者だったルイス・ウルスアが、

映画について、

自分たちが実際に経験したものをそのまま反映しているわけではない

という趣旨の評価もしている。

この二つは矛盾しているように見える。

しかし、

「作品として受け入れられること」と「事実の完全な再現であること」は別

である。

映画と史実|主要ポイントをまとめる

映画の描写 史実との比較 判定
8月5日に鉱山が崩落 実際に2010年8月5日発生 FACT
33人全員が生存 17日後に全員生存確認 FACT
食料がほとんどない 極端に少ない非常食を17日間配給 FACT
食料をめぐる激しい対立 緊張・食料問題には当事者証言あり。具体的場面は映画化 FACT+DRAMATIZATION
マリオが地下の中心リーダー 重要人物だが公式シフト責任者はLuis Urzúa SIMPLIFIED
探査孔が何度も失敗 実際に複数の探査孔を施工 FACT
「Estamos bien」の紙 José Ojedaが実際に作成。現存 FACT
María SegoviaがGolborneを平手打ち 確認できる記録なし FICTION
Álex Vegaの妻が妊娠 事故当時は妊娠していなかった FICTION
Mario Gómezが退職直前 事故当時に退職予定だったわけではない FICTION
救出坑を掘る Plan A・B・Cの3系統を並行 FACT/大幅圧縮
Fénixで一人ずつ救出 実際にFénix 2を使用 FACT
Fénixが空で地下へ来る 実際はManuel Gonzálezが最初に地下へ降下 SIMPLIFIED
Fénixが鉱夫を乗せて途中で危機 公式救出時系列に該当事象なし DRAMATIZATION
33人全員救出 10月13日、全員生還 FACT

映画を見るなら、ここを意識すると面白い

『チリ33人 希望の軌跡』は、

事故を技術的に完全再現したドキュメンタリーではない。

一方、

完全な創作でもない。

見るときは、

「このシーンは本当にあったのか」

だけでなく、

「なぜ映画は、この複雑な出来事をこの一人・この一場面へ集約したのか」

と考えると見え方が変わる。

例えば、

マリア・セゴビアの平手打ちは史実ではない。

しかし、

「家族側が救助を強く要求した」

という現実を視覚的に一瞬で伝える役割を持つ。

Fénixの途中停止も史実ではない。

しかし、

「カプセルが途中で止まればどうするか」

という危険は実際の設計者が考えていた。

このように、

映画の虚構の中にも、現実のリスクや対立を凝縮したものがある。

逆に、映画だけでは見えにくい本当の凄さ

CASE32を第1回から追うと、

映画以上に印象的なのは、

誰か一人の天才が33人を救ったわけではない

ことである。

地下では33人が17日間、自分たちで生存条件を維持した。

地上では探査チームが何本も孔を掘った。

接触後にはパロマによる補給線を作った。

医師は再給餌を管理した。

通信技術者は光ファイバーを地下まで伸ばした。

NASAは医療・心理・工学上の助言を行った。

Plan A・B・Cが同時に進んだ。

CodelcoとASMARはFénixを作った。

救助員は最初に地下へ降りた。

救出中に通信が切れれば、地下側の作業員自身がバックアップ系を復旧した。

そして最後にルイス・ウルスアが地上へ出た。

この事故の本当の特徴は、

「一人の英雄」ではなく、多数の人間と組織を一つのMISSIONへ接続したこと

にある。

CASE32の結論|「奇跡」ではなく、失敗を前提にした救出システム

2010年10月13日。

33人全員が生還した。

結果だけを見れば、

「奇跡の救出」

という言葉が最も分かりやすい。

しかし10回に分けて内部を見ると、

それだけでは説明できない。

探査孔は外れるかもしれない。

だから複数掘る。

掘削機は壊れるかもしれない。

だからPlan A・B・Cを走らせる。

救出カプセルは問題を起こすかもしれない。

だから試験機とバックアップ機を作る。

通信は切れるかもしれない。

だから複数系統を持つ。

人間は衰弱する。

だから医療・栄養・心理状態を管理する。

そして事故が起きた原因そのものについても、

一人のミスだけではなく、

岩盤。

採掘。

補強。

避難。

会社。

行政監督。

という複数の層から検証された。

サンホセ鉱山33人救出で本当に特徴的だったのは、

「絶対に失敗しない一つの技術」を作ったことではない。

一つが失敗しても次の手段が残るシステムを、時間のない中で構築したことだった。

映画『The 33』は、その69日間を人間ドラマとして見るための入口になる。

しかし公的記録までたどると、

その裏側には映画以上に複雑な、

探索・物流・医療・通信・掘削・機械設計・安全管理を統合した救出MISSION

があったことが分かる。

それが、

33人全員を地下から地上へ戻した。


CASE FILE 32|完結

2010年8月5日。

地下へ閉じ込められた33人。

8月22日。

「Estamos bien」のメモ。

10月9日。

Plan B貫通。

10月13日。

33人全員救出。

その後に続いた事故調査、安全制度、裁判。

そして映画『The 33』。

CASE FILE 32

「チリ鉱山33人救出 2010」

全10回、完結。


CASE FILE 32|全10回

  1. 第1回|チリ鉱山33人救出とは?
  2. 第2回|なぜサンホセ鉱山は崩落したのか
  3. 第3回|生存確認までの17日間
  4. 第4回|どうやって地下の33人を見つけたのか
  5. 第5回|地上と地下をどうつないだのか
  6. 第6回|33人の出口をどう掘ったのか
  7. 第7回|Fénix 2はどう設計されたのか
  8. 第8回|33人はどう地上へ戻ったのか
  9. 第9回|救出成功のあと何が問われたのか
  10. 第10回|映画『チリ33人 希望の軌跡』はどこまで実話なのか【現在の記事】

出典・参考資料

  • American Film Institute,
    “The AFI FEST Interview: THE 33 Director Patricia Riggen”
    ― 監督が33人全員へインタビューしたこと、33人の経験を約10人の主要人物へ集約した制作方針、Héctor Tobar『Deep Down Dark』を基礎資料としたことを確認。
  • 映画.com,
    『チリ33人 希望の軌跡』
    ― 日本題、原題The 33、127分、主要キャスト、作品概要を確認。
  • NASA History,
    “Chilean Miners Rescue Oral Histories”
    ― 8月5日の事故、17日後の生存確認、69日後の全員救出、NASAの医療・栄養・心理・工学面での支援範囲を確認。
  • Servicio Nacional del Patrimonio Cultural de Chile
    ― José Ojedaによる「Estamos bien en el refugio los 33」のメモ、8月22日、紙片の寸法・保存状況を確認。
  • Codelco,
    Reporte de Sustentabilidad 2010 / Operación San Lorenzo
    ― 探査、Plan A・B・C、Fénix 2、Florencio Ávalos、Luis Urzúa、約23時間の最終救出を確認。
  • Codelco,
    “Tenientinos recuerdan el rescate de los 33”
    ― Manuel GonzálezがFénix 2で最初に地下へ降りた救助員だったことを確認。
  • Emol / BioBioChile,
    2015年映画公開時の『Los 33』検証記事
    ― María Segoviaの平手打ち、Álex Vegaの妻の妊娠、Mario Gómezの退職設定など映画独自の脚色を確認。
  • チリ国内映画公開時の史実比較報道
    ― Fénixの救出描写、救出順序、André Sougarretの描写など、実際の救出記録との差を補足。
  • T13 / BBC Mundo,
    救出10周年の33人インタビュー
    ― Luis Urzúaによる映画化・権利関係・映画と実体験との差についての後年の評価を確認。

資料上の注意:
本記事の「映画側」の事実は映画本編・公式作品情報・監督インタビュー・映画公開時のチリ国内検証記事を用い、「史実側」はCodelco、NASA、チリ政府・文化遺産機関等の公的・準一次資料を優先した。

映画中の会話・人物対立について、公開資料だけで実際の地下会話を逐語的に確認することはできない。そのため、食料不足や集団内緊張のように当事者証言で存在自体を確認できるものと、映画内の具体的台詞・行動は区別した。

また「FICTION」は事件全体との関連がないという意味ではなく、その個別場面を史実として確認できない、あるいは映画用に追加されたことが確認できるという意味で使用した。

『The 33』は実在の33人・家族・救助関係者への取材を基に制作された劇映画であり、完全な史実再現を目的としたドキュメンタリーではない。