STORY SO FAR
前回「Oリングはなぜ密封に失敗したのか|固体ロケットブースター継手の構造」で確認した論点を受け、この回では打上げ後73秒に何が起きたのか | 映像とテレメトリで追う機体崩壊では、出来事はどの順序で進んだのか。を扱う。
1986年1月28日午前11時38分01秒、スペースシャトル・チャレンジャーの左右Solid Rocket Motorに点火指令が送られた。[5]
その約0.678秒後。
地上カメラは、右側Solid Rocket Boosterの後部field joint付近から黒い煙が出る様子を捉えていた。
煙は数秒間確認された後、見えなくなる。
その後しばらく、飛行は外見上ほぼ正常に見えた。
Mission Controlへ送られるtelemetryにも、ただちに「右SRBが致命的に破損している」と分かる単一の警報は現れなかった。
しかし、約58.8秒後、同じ右SRB後部付近に火炎が現れる。
約60秒で右SRB chamber pressureが左側から乖離し始め、火炎はExternal Tank方向へ曲げられる。
64.660秒、External Tankの液体水素tankから漏洩が始まったことを示す視覚的変化が現れる。
72秒台に入ると、右SRBとExternal Tankを結ぶ下側strutが破断または引き抜かれ、右SRBが上側attachmentを中心に回転し始める。
73.124秒、External Tank後部に白い環状のvapor patternが現れ、液体水素tankの構造破壊が始まる。
その直後、liquid oxygen側を含むExternal Tank構造も崩れ、Orbiterは本来想定されていない巨大な空力荷重へさらされる。
テレビ映像で巨大な火球として見える現象は、この一連の破壊の結果だった。
「73秒後に爆発した」という一文だけでは、この事故の進行は分からない。
チャレンジャー事故は、0.678秒の最初の異常から73秒台の全面崩壊まで、複数の異常が連続して進展した事故だった。
CASE052-04では、Rogers CommissionとNASA Accident Analysis Teamが写真・film・telemetryから再構成した時間軸をもとに、事故がどのように拡大していったのかを追う。
先に結論|73秒間に起きたこと
事故の進展は、大きく五段階に分けると理解しやすい。
第一段階は、点火直後のseal failure。
T+0.678秒には右SRB aft field joint付近から黒煙が確認されていた。
第二段階は、見かけ上の静穏期。
煙は約3秒台までに見えなくなり、その後50秒以上、決定的な外部火炎は確認されなかった。
第三段階は、hot-gas leakの再顕在化。
T+58.788秒、右SRBとExternal Tankの間に火炎が初めて視認される。
第四段階は、External Tank損傷。
火炎がExternal Tankへ当たり、64.660秒には液体水素tankの漏洩が視覚的・telemetry的に確認される。
第五段階は、構造連鎖破壊。
72秒台に右SRBの拘束が崩れ、73.124秒以降、External Tankの水素tank、intertank、liquid oxygen tankが極めて短時間に破壊され、Orbiterが空力荷重によって分解した。
この流れで重要なのは、「Oリングが壊れた瞬間」と「機体全体が失われた瞬間」の間に約1分以上あったことである。
直接原因はfield jointのpressure seal failureだった。
しかしvehicle lossは、その漏洩がSRB単体に留まらず、External Tankとattachment構造を破壊したことで成立した。
T+0秒|Solid Rocket Motor点火
Space Shuttle Main Engineは、Solid Rocket Boosterより先に点火される。
Main Engineが正常推力へ立ち上がり、vehicle側の条件が整った後、左右SRBへignition commandが送られる。
Solid Rocket Motorは液体rocket engineのように途中停止できない。
一度点火すれば、推進薬が燃焼し終えるまで大推力を発生し続ける。
この性質は、事故進展を考えるうえで重要である。
もし右SRB内部で異常が起きても、上昇初期に「右SRBだけ停止する」という選択肢はない。
二本のSRBとOrbiter、External Tankは、SRB燃焼中には一つのvehicle systemとして飛び続ける。
field jointでgas leakが発生したとしても、その瞬間に飛行を中断して安全に停止することはできなかった。
T+0.678秒|最初の黒煙
NASAの地上camera film解析で最初に異常が確認されたのは、Mission Elapsed Time 0.678秒だった。
右SRB aft field joint付近から、黒い煙のcloudが現れた。
複数cameraの映像を解析した結果、煙の発生源は右SRBの後部field joint近傍と判断された。
煙は一回だけではなかった。
初期数秒の間に複数のpuffとして現れ、少なくとも3.3秒台まで確認されている。
この黒煙は、joint内部の燃焼生成物やinsulation、Oリング周辺材料が高温ガスへさらされた結果と考えられた。
重要なのは、この時点ですでに右SRBのpressure boundaryが完全ではなかったことだ。
CASE052-03で見たように、低温下のOリングはjoint rotationへ十分速く追従できず、pressure sealの成立に失敗したとCommissionは結論づけている。
0.678秒の煙は、その内部failureが機体外から観測できた最初の証拠だった。
なぜ数秒後に煙が消えたのか
ここが事故時系列の中で最も誤解されやすい部分の一つである。
黒煙は数秒で見えなくなった。
もしjoint sealが完全に失敗していたなら、
「なぜそのまま巨大な火炎が出続けなかったのか」
という疑問が出る。
事故調査では、いくつかの可能性が検討された。
Rogers Commissionは、初期のleak pathが一時的に塞がれた可能性として、Solid Rocket Motorの燃焼生成物であるaluminum oxideなどがjoint内へ堆積し、脆い一時sealを形成した可能性を挙げている。
ただし、これは映像から直接「aluminum oxideが塞いだ」と確認できたわけではない。
Commissionが示したのは、初期leakと約58秒後の再出現を説明する合理的なmechanism候補である。
別の可能性として、非常に小さなleakが継続しながら、外部cameraで視認できる規模に成長するまで時間がかかったことも検討された。
したがって本文では、
「3秒でOリングが直った」
とは書けない。
より正確には、
「点火直後にleakの証拠があったが、その後しばらく外部から明瞭なplumeは観測されず、jointが完全に健全へ戻ったことは確認されていない」
となる。
T+3秒〜約58秒|見かけ上は正常だった時間
この50秒以上の区間は、事故映像だけを見ると「何も起きていない」ように見える。
Space Shuttleは上昇を続け、予定されたpitch programへ入る。
Main EngineとSRBは推力を発生し、飛行制御系はvehicle姿勢を維持していた。
右SRB chamber pressureも、初期には致命的な異常を示す値ではなかった。
NASA Accident Analysis Teamの時系列では、5.674秒時点の右motor pressureは統計的に異常な低下を示していない。
ここが、事故の発見を難しくした。
点火直後には外部映像上の異常があった。
しかしMission Controlが通常利用するtelemetryだけでは、即座にvehicle lossへつながるjoint leakとして明瞭に認識できなかった。
さらに、地上camera filmは事故後解析には極めて重要だったが、飛行中にすべての高速度filmを即時解析してflight controlへ返す仕組みではない。
つまり、
「異常は記録されていた」
ことと、
「運用中に異常として認識できた」
ことは別である。
事故後に映像をframe単位で確認すれば0.678秒の煙を特定できる。
しかしlaunch中のreal-time operational systemでは、それが即座に「aft field joint leak」としてalarm化されていたわけではなかった。
上空の風とvehicle control
上昇中、チャレンジャーは大気中の風の変化を受ける。
Rogers Commissionは32秒から62秒付近のwinds aloftによるcontrol actionが、それまでの任務でも大きい部類だったと記録している。
ただし、この上空風自体を事故の根本原因として扱うのは正しくない。
vehicle control systemは風によるpitch、yaw、roll変化へ応答し、SRB thrust vector controlやOrbiter control surfacesを使って姿勢を保っていた。
問題は、もし右SRB aft field jointが燃焼生成物による脆いdepositなどで一時的に封止されていた場合、vehicle motion、thrust vectoring、dynamic loadingがそのsealを崩す可能性があることだった。
Commissionは、このmechanismを「あり得る説明」として示した。
つまり風は、
「正常なjointを壊した主原因」
ではない。
すでに損傷していたjointで一時的に成立していた封止を乱す可能性のあるdynamic conditionの一つだった。
この区別は重要である。
T+58.788秒|火炎が再び見える
58.788秒。
地上camera E207は、右SRBとExternal Tankの間にflickering flameを記録した。
初期の黒煙から約55秒後である。
この火炎は、右SRB aft field joint付近に対応する位置に現れた。
59.262秒には、連続した明瞭なplumeとして確認される。
59.753秒前後には別cameraからもflameが見える。
ここから事故の進展は急速になる。
右SRB内部の高温・高圧combustion gasが、もはやjoint内部へ封じ込められていなかった。
hot gas plumeは外部へ噴き出し、すぐ隣にあるExternal TankとSRB attachment付近へ向かう。
T+60.004秒|右SRB chamber pressureが乖離する
60.004秒。
telemetry上でも、右SRB chamber pressureが左SRBと異なる挙動を示し始める。
左右のSRBは基本的に近いthrust historyを持つ。
右側だけpressureが低下することは、燃焼gasが正規のnozzle以外から漏れている状況と整合する。
この時点で、事故は「cameraにしか見えない現象」からtelemetryへも現れ始めた。
ただし、すでにhot gas leakはExternal Tank近傍で進行していた。
60.238秒にはplumeのdeflectionが確認される。
60.248秒には、plumeがExternal Tankの2058 ring frame付近へ当たっていることを示す映像が得られた。
60.988秒には、そのdeflectionが連続的になる。
右SRBからのhot gas jetが、External Tankを加熱・損傷する状態になっていた。
SRB単体の故障がExternal Tankへ波及する
Space Shuttleの構成では、左右SRBが巨大なExternal Tankの両側へ取り付けられている。
External Tank内部には、Orbiterの3基のSpace Shuttle Main Engineへ供給する液体水素と液体酸素が搭載されている。
右SRB aft field jointはExternal Tankから遠く離れた場所ではない。
jointから外へ噴き出した高温gas plumeは、vehicle geometryによってExternal Tank表面とattachment構造へ作用した。
ここで事故は、単一component failureからsystem-level failureへ移行した。
右SRBだけの圧力損失で終われば、別のfailure sequenceになった可能性がある。
しかし実際には、leak jetが隣接するExternal Tankを損傷した。
Space Shuttleの各elementが物理的に近接し、構造的に結合されていることが、failure propagationの経路になった。
T+64.660秒|External Tankの液体水素漏洩
64.660秒。
右SRBからのanomalous plumeの形状と色が急に変化した。
Commissionは、これをExternal Tankのliquid hydrogen leakが始まった最初の視覚的証拠と判断した。
その約45 milliseconds後、64.705秒には、ChallengerとExternal Tankの間の黒いtile面付近にbright sustained glowが現れる。
telemetryでも変化が続く。
66.8秒頃にはExternal Tank hydrogen tank pressurization systemが通常のrepressurization rateを維持できなくなり、漏洩の存在を裏付ける。
External Tankは単なる燃料容器ではない。
上昇中のvehicle構造の中心でもあり、Orbiterと二本のSRBが一体として飛ぶための重要な構造要素だった。
そのhydrogen tankが高温gasで損傷し、内部の極低温propellantが漏れ始めた。
この時点でvehicleは、推進系と構造系の双方で急速にmarginを失っていた。
Flight Controlは最後まで姿勢を直そうとしていた
約62秒以降、vehicle control systemは異常なforcesへ反応し始める。
右SRBからのplumeはthrust asymmetryとaerodynamic disturbanceを生む。
左SRB thrust vector controlなどは、それを打ち消す方向へ動く。
その後もpitch、yawを補正するcommandが出続ける。
ここで注目すべきなのは、制御系そのものがただちに停止したわけではないことだ。
sensor。
flight computer。
actuator。
Main Engine。
これらの多くは、破壊直前まで入力に対して正常に応答しようとしていた。
制御系から見れば、姿勢がずれる。
だから補正commandを出す。
さらにずれる。
もっと大きなcommandを出す。
しかし原因は通常のdisturbanceではなく、構造体そのものが壊れ始めていることだった。
control authorityの範囲を超えたphysical failureに対し、feedback controlだけでvehicleを維持することはできない。
これは制御工学的にも重要な点である。
制御系が正常に動作していても、制御対象の構造健全性が失われればsystemは救えない。
T+72.20秒|右SRB下側attachmentが失われる
72秒台に入ると、事象は数百milliseconds単位で進む。
約72.20秒、右SRBとExternal Tankを結ぶlower strutが破断、または弱くなったhydrogen tank側から引き抜かれた。
これにより、右SRBは完全に自由になったわけではない。
上側attachmentはまだ残っていた。
そのため右SRBは上側接続点を中心に回転し始める。
telemetryでは、左右SRBのyaw、pitch rateが一致しなくなる。
それまで三つの主要elementが一体となって飛んでいたvehicleの幾何構造が、この時点で崩れ始めた。
右SRBはなお燃焼中で、大きな推力を発生している。
その巨大なmotorが片側の拘束を失い、External Tankに対して回転する。
この動きは、すでに損傷していたExternal Tankへさらに大きな構造荷重を与えた。
T+72.6秒前後|hydrogen tank pressureを維持できない
External Tank hydrogen leakは拡大していた。
72.6秒頃、hydrogen tank pressureはpressurization systemでも維持できない状態になる。
これは漏洩pathが急速に大きくなっていたことを示す。
ほぼ同時にvehicle control systemには大きなcommandが現れ、Main Engineへ供給されるpropellant pressureにも異常が迫っていた。
事故映像では、この時点でも「完成したシャトルの形」はまだ一瞬見えている。
しかし内部では、
右SRB attachment failure
External Tank hydrogen leak
vehicle attitude divergence
propellant pressure degradation
が同時進行していた。
「73秒まで正常だった」のではない。
73秒に入る前には、すでにvehicleを一体構造として維持する条件が失われつつあった。
T+73.124秒|水素tankの構造破壊
73.124秒。
External Tankのaft dome側に、周方向へ広がる白いvapor patternが現れた。
Rogers Commissionは、これをliquid hydrogen tankの構造破壊開始と判断した。
aft domeが失われ、大量の液体水素が一気に放出される。
Commissionの記述では、この急激な水素放出によって非常に大きなforward thrustが生じ、hydrogen tankが上方のintertankへ押し込まれた。
同時に、片側attachmentを失って回転していた右SRBもintertankおよびliquid oxygen tank下部へ衝突、または異常荷重を加えたと考えられている。
ここから先は、milliseconds単位の破壊になる。
T+73.137秒|intertankと酸素tank側も破壊
73.137秒。
intertank regionに白いvaporが現れ、liquid oxygen tank側の構造破壊が進行したことが示された。
External Tankは、上部にliquid oxygen tank、下部にliquid hydrogen tank、その間にintertankを持つ構造である。
hydrogen tank後部の破壊。
右SRBの回転。
intertankへの圧縮・衝突荷重。
これらが短時間に重なった。
液体水素と液体酸素が大量に放出される。
それらが混合・燃焼し、テレビ映像で巨大な白橙色のcloudとして見える現象になる。
ただし、この火球を「External Tankが爆弾のようにdetonationした」と単純化するのは適切ではない。
一次資料では、External Tankの構造破壊によってpropellantが大量放出され、それが急速に燃焼したと整理されている。
重要なのは「爆発」という名称ではなく、その前に構造破壊が起きていたことである。
T+73.19秒以降|Orbiterが空力荷重で分解する
External Tankが崩壊すると、Orbiterは正常なlaunch stackの一部として飛ぶことができなくなる。
NASAの任務 profileでは、この時点のChallengerは高度約46,000 feet、Mach 1.92付近だったとされる。
約音速の2倍近い速度で濃い大気中を飛行している。
Orbiterは本来、External TankとSRBを含む構成で、決められた姿勢・trajectoryを飛ぶことを前提に設計されている。
その構造関係が突然失われれば、vehicleへかかるaerodynamic loadは設計範囲を大きく超える。
映像では、Orbiterのreaction control system propellantがruptureし、赤褐色のhypergolic burnが見える。
さらにMain Engine/tail section、wing、forward fuselageなど、複数の大きな構造物がfireballから分離して現れる。
つまり、Orbiter全体が一つの火球で瞬間的に消滅したわけではない。
External Tank破壊の後、Challenger Orbiterは異常な空力荷重によって複数のlarge sectionへ構造分解した。
「73.124秒」「73.213秒」「73.327秒」はなぜ複数あるのか
事故資料を読むと、vehicle lossの時刻として複数の数字が出てくる。
73.124秒。
73.137秒。
73.213秒。
73.327秒。
これは資料が矛盾しているという意味ではない。
「何を事故の瞬間と定義するか」が違うからである。
73.124秒は、External Tank hydrogen tankのstructural failure開始を示す白い環状vaporが観測された時刻。
73.137秒付近は、intertank / LOX tank側のfailure 証拠が現れた時刻。
Accident Analysis Teamの別時系列では、73.191秒のflash、その直後のtotal vehicle structural breakupを73.213秒付近としている。
Photographic Working Groupでは、vehicle structural breakupを約73.327秒として整理した資料もある。
一方、NASAの一般向け記述では「73 seconds after liftoff」とまとめられる。
したがって、このCASEでは、
「73.124秒にすべてが一瞬で爆発した」
とは固定しない。
72秒台から73秒台にかけて、attachment failure、tank failure、propellant release、Orbiter breakupが数百millisecondsの間に連続した、と理解する。
Main Engineは原因だったのか
事故映像を見ると、OrbiterのMain Engineも大きな火炎の中にある。
そのため、Main Engine failureを原因とする仮説も事故直後には検討対象となった。
しかしRogers Commissionは、Space Shuttle Main Engineについて、事故原因へ寄与した証拠はないと結論づけた。
むしろtelemetryでは、External Tankからのpropellant供給が失われるまでMain Engineは与えられた条件に応答していた。
同様に、External Tank自体の製造・構造欠陥が事故の最初の原因だったという仮説も検討された。
CommissionはExternal Tankの製造記録、acceptance test、pre-launch data、flight data、recovered hardwareを調べ、External Tankが事故原因を開始した証拠を見つけなかった。
事故連鎖の起点は、右SRM aft field jointからのcombustion gas leakだった。
氷が機体へ当たったことが原因だったのか
1月28日の発射台には大量の氷があった。
そのため、ice debrisが機体へ衝突し事故を起こしたのではないかという可能性も調べられた。
Photographic Working Groupはpad imageryを分析し、氷は多かったものの、それによってvehicle anomalyが発生した証拠はないと結論づけている。
CASE052-02で扱ったとおり、氷は打上げ判断上の重要な懸念だった。
しかし、
「氷がチャレンジャーを壊した」
という意味ではない。
事故調査では、右SRB aft field joint leakがfirst eventとして最も整合するscenarioへ収束した。
右SRBの火炎はなぜExternal Tankを壊せたのか
Solid Rocket Motor内部の燃焼gasは非常に高温である。
本来はcaseとnozzleによって制御され、推力として後方へ排出される。
しかしfield jointから漏れれば、そのhot gas jetは設計されていない方向へ噴出する。
しかも右SRBはExternal Tankのすぐ横へ取り付けられている。
leak位置がExternal Tank側へ向けば、局所的に強烈なheatingが加わる。
さらにSRBとExternal Tankをつなぐattachment 構造も同じ領域にある。
したがって一つのleak jetが、
tank wall
insulation
attach strut
周辺構造
へ同時に影響し得る。
このgeometryがfailure propagationを加速した。
これは「隣接配置が悪かった」という単純な設計批判ではない。
Space Shuttleというlaunch stackでは、巨大なpropellant tankとboosterを近接させることは構成上必然だった。
だからこそ、SRB pressure boundaryの健全性はvehicle全体へ直結するcritical functionだった。
事故の進行を秒単位で整理する
73秒台では複数の構造破壊が数百msの間に連続しており、73.124秒を単一の『爆発時刻』とは扱わない。
| Mission Elapsed Time | 観測・事象 |
|---|---|
| T+0 | SRM ignition command |
| T+0.678 s | 右SRM aft field joint付近に最初のanomalous smoke |
| 〜T+3.3 s | smoke puffが継続して観測される |
| T+3〜58 s | 明瞭な外部plumeは見えない。飛行は外見上ほぼ正常に進行 |
| T+58.788 s | 右SRMとExternal Tankの間に最初のflickering flame |
| T+59.262 s | continuous, well-defined plume |
| T+60.004 s | 右SRM chamber pressureが左側から乖離開始 |
| T+60.238〜60.988 s | plumeがExternal Tank方向へdeflectし、連続的に当たる |
| T+64.660 s | plume形状変化。External Tank LH2 leakの最初の視覚的証拠 |
| T+64.705 s | Challenger下面とExternal Tank間にbright sustained glow |
| T+66.8 s付近 | hydrogen tank pressurization telemetryがleakを裏付ける |
| T+72.20 s | 右SRB lower attachment strutが破断/引き抜かれ、右SRBが回転開始 |
| T+72.6 s付近 | hydrogen tank pressure維持不能。leak拡大 |
| T+73.124 s | hydrogen tank structural failure開始を示す白い環状vapor |
| T+73.137 s前後 | intertank / LOX tank側の構造failure |
| T+73.2 s前後 | propellantの大量放出・燃焼、vehicle structural breakupが急速に進行 |
| 約T+73 s | 一般に「Challenger loss」と表現される時点 |
制御工学的に見ると何が起きていたのか
この73秒を制御システムとして見ると、興味深い特徴がある。
「制御装置が壊れたから事故になった」のではない。
姿勢制御系は、入力されたsensor dataをもとに可能な限り補正し続けた。
actuatorも動く。
thrust vector controlも応答する。
Main Engineもpropellant供給が維持される間は動作する。
それでもvehicleは救えない。
理由は、制御対象そのものの構造が制御可能範囲から外れたからである。
右SRBから異常thrust vectorが発生する。
External Tankが漏れる。
attachmentが失われる。
vehicle geometryが変わる。
この段階になると、flight computerがいくら正確に姿勢誤差を計算しても、commandで戻せるplantではない。
産業設備なら、
「サーボ制御は正常だが、機械結合部が破断して軸そのものが拘束を失った」
状態に近い。
feedback loopの正常性とsystem safetyは同義ではない。
制御系の外側にあるmechanical integrityが失われれば、正常な制御出力が事故を止めることはできない。
「73秒」は原因ではなく結果の時刻
チャレンジャー事故が73秒で語られる理由は分かりやすい。
映像上、vehicle lossが誰にでも明白になるのがその時点だからである。
しかし事故解析では、73秒を開始点にしてはいけない。
物理的failureの起点は点火時近くにある。
0.678秒にはその証拠が外部映像へ現れている。
さらにその背後には、field joint design、低温、Oリングresponseという事故前から存在する条件があった。
逆に73秒以降だけを見ても、なぜExternal Tankが壊れたのかは分からない。
チャレンジャー事故の時系列は、
T-数年:joint designと既知anomaly
↓
T-数時間:低温条件と打上げ判断
↓
T+0秒:seal failure
↓
T+58秒:hot gas leak再顕在化
↓
T+64秒:External Tank損傷
↓
T+72〜73秒:構造連鎖破壊
という複数scaleで見る必要がある。
CASE052-04が扱うのは最後の約73秒だが、その73秒は前の記事で見てきた設計と意思決定が物理現象へ変換された時間でもある。
検証ポイント|73秒の事故進展
| 項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 最初の異常映像 | T+0.678秒、右SRM aft field joint近傍の黒煙 |
| 初期煙の終了 | 約3.3秒台までに最後の明瞭な煙 |
| 明瞭な火炎の再出現 | T+58.788秒 |
| 連続plume | T+59.262秒 |
| 右SRM pressure divergence | T+60.004秒 |
| ETへのplume impingement | 約60〜61秒以降 |
| LH2 leakの視覚的証拠 | T+64.660秒 |
| 右SRB lower strut failure | 約T+72.20秒 |
| LH2 tank structural failure開始 | T+73.124秒 |
| LOX/intertank failure | 約T+73.137秒以降 |
| Orbiter loss mechanism | External Tank崩壊後、異常なaerodynamic loadsによるstructural breakup |
| Main Engine | accident initiating causeではない |
| External Tank | accident initiating causeではない |
| Pad ice | vehicle anomalyの原因となった証拠なし |
| Initiating physical cause | 右Solid Rocket Motor aft field joint pressure seal failure |
「爆発」という言葉をどう扱うべきか
日常語として「チャレンジャー爆発事故」と呼ぶこと自体を否定する必要はない。
NASAの一般向け資料でもexplosionという表現は使われる。
しかし技術的には、その言葉だけだと三つの違う現象が一つになる。
第一に、SRB field jointからのhot gas leak。
第二に、External Tankの構造破壊と大量propellant放出。
第三に、Orbiterのaerodynamic structural breakup。
テレビ映像では、これらが数百millisecondsの中で重なり、巨大なfireballとして見える。
だから視覚的には「爆発」に見える。
しかし原因解析では分けなければならない。
分けることで、
「なぜOリングのseal failureがvehicle全体の喪失へつながったのか」
が初めて理解できる。
次回|海底の残骸は何を語ったのか
映像とtelemetryだけでも、事故の進行はかなり詳細に再構成できた。
しかし事故調査は、それだけで終わらなかった。
大西洋へ落下したSRB、External Tank、Orbiterの残骸は広範囲に散らばった。
捜索・salvageでは、事故原因の物理的証拠を回収する必要があった。
特に重要だったのが、右Solid Rocket Motor aft field jointを含む焼損部品である。
回収されたhardwareには、映像から推定された位置と対応するburn damageが残っていた。
一方、乗員区画の回収は別の重大な問題を突きつけた。
何が事故時に起きたのか。
どこまでを物証から確定できるのか。
そして乗員の最終状態について、何は分かり、何は分からないのか。
CASE052-05では、海上・海底捜索、残骸回収、reconstructionとcrew compartment investigationを追い、事故調査が「映像上の仮説」をどのように物証で確認したのかを見る。[3]
FACT CHECK|出典・参考資料
- [1] Presidential Commission on the Space Shuttle Challenger Accident, Report, Chapter III: The Accident
- [2] Presidential Commission on the Space Shuttle Challenger Accident, Report, Chapter IV: The Cause of the Accident
- [3] Presidential Commission on the Space Shuttle Challenger Accident, Volume II, Appendix L: NASA Accident Analysis Team Report
- [4] Presidential Commission on the Space Shuttle Challenger Accident, Volume III, Appendix N: Photographic and TV Analysis
- [5] Presidential Commission hearings, March 21, 1986, accident imagery and flight dynamics reconstruction
- [6] NASA, STS-51L Mission Profile
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