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海賊・反乱・海震・海上竜巻説はどこまで成立するのか主要仮説を証拠で比較

海賊・反乱・海震・海上竜巻説はどこまで成立するのか|主要仮説を証拠で比較

海難・失踪ミステリー

海賊に襲われた。

乗組員が反乱を起こした。

船長と発見者が保険金目当てで共謀した。

海震が船を襲った。

海上竜巻に巻き込まれた。

巨大生物が人間だけをさらった。

そして、船倉のアルコールが爆発した。

1872年に無人で発見されたメアリー・セレスト号には、150年以上にわたって無数の説明が提案されてきた。

説が多いと、それだけ事件に多くの証拠があるように感じる。

しかし実際には逆である。

決定的な記録がないから、数多くのシナリオを排除し切れない。

そこで今回は、「こんなこともあり得る」という発想から一度離れる。

各説を同じ条件にかける。

  • 航行可能だった本船を説明できるか
  • 救命艇がなくなった理由を説明できるか
  • 10人全員が船を離れた理由を説明できるか
  • 明白な暴力痕跡がないことと整合するか
  • 積荷の大部分が残っていたことと整合するか
  • 重要書類・航海計器が持ち出されたことを説明できるか
  • 船へ戻れなかった理由を説明できるか
  • 1872~73年の記録による直接的な裏付けがあるか

そして、

もっとも刺激的な説ではなく、もっとも少ない追加仮定で確認事実を説明できる説

を探す。

この記事で分かること

  • 海賊説がなぜ有名なのに支持しにくいのか
  • 乗組員反乱説にはどの程度の証拠があるのか
  • デイ・グラティア側のサルベージ詐欺説は成立するのか
  • 海震説には史料上の裏付けがあるのか
  • 海上竜巻・巨大波説は発見状況と整合するのか
  • アルコール説と浸水・ポンプ説の強みと弱み
  • 現時点でもっとも追加仮定が少ないシナリオは何か
  • それでも「解決」と言えない理由
CASE FILE 39|メアリー・セレスト号 1872

← 第7回|1,701樽のアルコールは原因だったのか|漏洩・蒸気・爆発恐怖説を検証

第8回|海賊・反乱・海震・海上竜巻説はどこまで成立するのか|主要仮説を証拠で比較【現在の記事】

→ 第9回|「幽霊船メアリー・セレスト」はどう作られたのか|コナン・ドイルと後世の脚色

まず、説明しなければならない「8つの事実」

仮説を比較する前に、少なくとも説明対象となる事実を固定する。

No. 説明すべき事実
1 船長一家3人と乗組員7人、計10人全員がいなくなった
2 救命艇がなくなっていた
3 船の重要書類とブリッグスの一部航海計器もなくなっていた
4 船内に明白な大量殺人の証拠は確認されなかった
5 積荷の大部分と乗員の私物が残っていた
6 船には損傷と浸水があったが、後に再び航行できた
7 最後の記録はサンタマリア島付近だった
8 10人も救命艇も、その後確実には発見されていない

強い仮説は、この8点をなるべく一つの連鎖で説明できる。

弱い仮説は、一つを説明するために別の事実と矛盾したり、証拠のない出来事をいくつも追加しなければならない。

仮説1|海賊に襲われた

もっとも分かりやすい説明の一つが海賊説である。

19世紀の大西洋を航海中、

別の船に襲われ、

10人が殺害または拉致された。

その後、メアリー・セレスト号だけが放置された。

というシナリオだ。

人が全員いなくなったこと自体は説明できる。

しかし問題は、船内に残されたものにある。

メアリー・セレスト号そのものが残っている。

約1,700樽の積荷も大部分が残っている。

乗組員の私物も概ね残っている。

そして最初に乗船したデヴォーらは、明白な暴力の跡を確認していない。

海賊が経済的利益のために襲ったのであれば、

価値のある船と積荷を残し、人間10人だけを消す理由

を追加で説明しなければならない。

さらに、なぜ救命艇と航海計器までなくなったのかも問題になる。

海賊説|評価

10人不在:○
救命艇不在:△
積荷残存:×
私物残存:×
暴力痕跡なし:×
直接証拠:×

総合:低

海賊説を完全に論理上排除することはできない。

しかし、現在残っている物証から積極的に海賊を導く材料はない。

仮説2|乗組員が反乱を起こした

反乱説は1872年当時から実際に疑われた。

ジブラルタル司法長官フレデリック・ソリー=フラッドも、

乗組員が積荷のアルコールを飲み、

ブリッグス船長一家を殺害したのではないかと考えた。

この説には、一見して説明力がある。

暴力事件


船長一家死亡


反乱者が救命艇で逃亡

とすれば、人と艇が消えたことを説明できる。

しかし第5回で確認したように、物証が続かなかった。

血液と疑われた染みは血液とは確認されなかった。

剣の染みも血液ではなかった。

船首の傷についても人為的損傷とは確定しなかった。

遺体もない。

そして、船長一家だけでなく反乱を起こしたはずの船員自身まで全員消えている。

反乱者が船を奪うことが目的なら、なぜ使用可能なメアリー・セレスト号を捨てて小型艇に移るのかという問題も残る。

反乱説|評価

10人不在:△
救命艇不在:△
暴力痕跡:×
船を捨てた理由:×
積荷残存:△
当時の公的検討:○
犯罪を裏付ける証拠:×

総合:低

反乱説は「当時の捜査仮説」として重要だが、現在のEvidenceでは強い説とは言いにくい。

仮説3|デイ・グラティア側が殺害し、サルベージ報酬を狙った

これもジブラルタル審問に起源を持つ。

無人船を港まで運べば、デイ・グラティア側にはサルベージ報酬が支払われる。

そこで、

デイ・グラティアがメアリー・セレスト号を捕捉


10人を殺害


無人船に見せかける


「偶然発見した」と申告


報酬を得る

という筋書きである。

だが、この説にも大きな問題がある。

デイ・グラティアはメアリー・セレスト号より後にニューヨークを出航している。

そのうえ、犯罪を示す直接証拠は見つからなかった。

殺害場所も、遺体処理も、共謀を示す記録もない。

サルベージ報酬を得るために10人を殺害するという非常に大きな犯罪を仮定しながら、それを支える物証が存在しない。

つまり、

説明するために必要な追加仮定が多すぎる。

仮説4|ブリッグスとモアハウスが最初から共謀した

殺人ではなく、両船長が最初から計画していたという説もある。

メアリー・セレスト号を意図的に放棄し、
デイ・グラティアが発見、
サルベージ報酬を分ける。

しかし、この説はさらに難しい。

ブリッグスは妻と2歳の娘を乗せている。

大西洋上で幼児を含む10人を小型艇へ移す行為自体が生命を危険にさらす。

しかも、その後10人全員が実際に行方不明になっている。

共謀計画だったなら、

安全に上陸して身を隠す場所、回収船、通信方法などが必要になる。

それらを裏付ける資料はない。

また、後世に広まった「ブリッグスとモアハウスは親友だった」という話も、同時代記録による強い裏付けがない。

成立させるには、

証拠のない巨大な計画を丸ごと追加する必要がある。

したがって説明力は低い。

仮説5|海震が発生した

自然現象の中では、海震説も提案されてきた。

海震とは、海底地震などによって船体に強い振動や衝撃が伝わる現象である。

もしメアリー・セレスト号付近で強い海震が起きたなら、

  • 船体が激しく振動する
  • 積荷の樽が動く
  • アルコールが漏れる
  • 船体が損傷したと思わせる
  • 乗員が沈没を恐れる

といった連鎖を想定できる。

海震説には、興味深い実例もある。

1885年には、別の船が激しい海震を経験し、乗組員が船を放棄した事例が報告されている。

つまり、

「海震に驚いた船員が航行可能な船を離れる」という行動そのものは、船員行動として不可能ではない。

問題はメアリー・セレスト号である。

1872年11月25日前後に、同船付近で退船を引き起こす規模の地震・海震が起きたことを示す確実な記録は確認されていない。

後世、アゾレス側の気象機関へ照会された記録でも、該当する地震記録はないと回答されたとする史料研究がある。

したがって、

物理的には成立するが、この事件へ適用する直接証拠がない。

海震説|評価

突然の退船:○
船が残る:○
10人全員の退避:○
救命艇不在:○
航海計器持出し:△
1872年の該当現象記録:×

総合:低~中/物理的可能性はあるが事件固有の証拠が弱い

仮説6|海上竜巻・ウォータースパウト

海上竜巻、いわゆるwaterspoutも古くから候補に挙がってきた。

強い海上竜巻に遭遇すれば、

  • 急激な風
  • 大きな波
  • 大量の海水
  • 帆・索具の損傷

が発生し得る。

メアリー・セレスト号には実際に、

帆・索具の損傷と浸水があった。

その意味では、一部の発見状況と整合する。

しかし問題は、退船行動である。

激しいウォータースパウトの最中に、

船長が妻と2歳の娘を含む10人全員を大型本船から小型艇へ移すことが、本当に安全側の判断になるのか。

通常、暴風と高波そのものが主な脅威なら、小艇の方が危険になりやすい。

そのため海上竜巻説だけで、

「なぜ全員が救命艇へ移ったのか」

まで説明するには追加条件が必要になる。

例えば、

竜巻によって船体が致命的に損傷したと思い込んだ、

あるいは大量浸水が起きた、

という別の判断要因を加える必要がある。

さらに、メアリー・セレスト号を実際にウォータースパウトが襲ったことを示す直接記録もない。

仮説7|巨大波・異常波

巨大波や突然の異常波が甲板を襲ったという説もある。

これなら、

  • 浸水
  • 索具損傷
  • ハッチ周辺の異常

をある程度説明できる。

しかし、

一波で10人全員が海へ流された

という説明には救命艇の欠落が合わない。

航海計器と重要書類まで同時になくなることも説明しにくい。

逆に、

大波によって危険を感じ、その後計画的に救命艇へ移った

とすれば説明できるが、それは結局、

「自然現象によって船長が沈没を恐れ、退船した」

というより広い退船仮説の一部になる。

仮説8|10人全員が海へ落ちた

最も単純に見える説が、

大波などによって10人全員が一度に海へ落ちた、

というものだ。

しかし発見状況とは合いにくい。

救命艇がない。

船の重要書類もない。

ブリッグスの航海計器もない。

偶然全員が転落すると同時に、それらの物まで都合よく消える説明は難しい。

したがって、

少なくとも「全員が偶然一斉に流された」より、意図的な退船の方が物証との整合性が高い。

仮説9|アルコール蒸気・爆発

前回詳しく扱った説である。

1,701樽のアルコール。

そのうち9樽が空。

漏洩したアルコールから蒸気が発生。

着火または爆発への恐怖。

そのため全員が小艇へ避難した。

というシナリオである。

この説は他の多くの説より強い。

原因候補となる物質が実際に船内に存在したからである。

そして9樽が空だったという物証もある。

一方で、

実際に爆発したことを示す直接記録はない。

発見時に大規模な焼損も確認されていない。

したがって、

「巨大爆発が起きた」

より、

「積荷に危険を感じ、予防的に退避した」

とする方が少ない仮定で成立しやすい。

仮説10|浸水・ポンプ・航法の複合要因

現代的な再検証でもっとも重視されるのが、第6回で扱った複合シナリオである。

これは、

「一つの異常が突然すべてを起こした」

とは考えない。

複数の小さな不確実性が重なったとする。

例えば、

長期間の荒天


船内へ水が入る


水位を測定する


排水能力または浸水量に不安を持つ


船倉は1,701樽の貨物で確認しにくい


船位にも不確実性


ようやくサンタマリア島を視認


「まだ陸地が近い今のうちに一時退船する」

という連鎖である。

この説の強みは、

  • 浸水が実際にあった
  • 水位確認に使う測深棒が出ていた
  • ポンプの一つが外されていた
  • 荒天を経験していた
  • 最後の記録では陸地が近かった
  • 救命艇がなくなった
  • 航海計器・書類もなくなった

という実在する状況証拠を比較的多く利用できることである。

ただし弱点もある。

ポンプが実際に能力低下していたことは確認されていない。

船位誤差も現代の再構成である。

そしてブリッグス本人が、

「沈没すると考えた」

という記録を残していない。

したがって、この説もTHEORYである。

仮説11|一時退船後に本船と離れてしまった

ここまでの中で、もっとも重要なのが「永久放棄ではなかった」という考え方である。

ブリッグスは、

メアリー・セレスト号を完全に捨てたのではなく、

危険が収まるまで救命艇へ一時的に移った

可能性がある。

本船と艇を索でつなぐ。

危険が収まれば戻る。

本当に沈み始めれば、艇でサンタマリア島を目指す。

この運用であれば、

経験ある船長が航行可能な船を離れた問題をある程度説明できる。

その後、

強風や波などによって索が失われた。

帆を一部残した本船だけが風を受けて離れていく。

救命艇では追いつけない。

10人が外洋に取り残される。

そしてメアリー・セレスト号だけが無人で航海を続ける。

このシナリオなら、

  • 船が航行可能だった
  • 人が全員いない
  • 救命艇もない
  • 航海計器も持ち出された
  • 船内に殺人痕跡がない
  • 積荷も残っている

という主要事実を一つの流れで説明できる。

問題は、

実際に艇を本船へつないでいたことを証明する直接証拠がない

ことである。

主要仮説を同じ評価軸で比較する

仮説 全員不在 救命艇 積荷残存 暴力痕なし 計器持出し 直接証拠 総合
海賊 × × ×
反乱・殺人 × ×
サルベージ詐欺 ×
海震 × 低~中
海上竜巻・異常波 × 低~中
アルコール危険認識
浸水・ポンプ・航法複合 中~高
一時退船+本船との離別 中~高

この表の「中~高」は、

真相である確率を数値化したものではない。

確認できる事実との整合性と、必要となる追加仮定の少なさを比較した相対評価である。

では、現在もっとも合理的な再構成は何か

ここまでのEvidenceだけで考えると、

海賊。

反乱。

殺人。

詐欺。

といった犯罪説より、

乗船者自身が何らかの危険を認識し、救命艇へ移った

という説明の方が物証と整合する。

さらに、

「船を永久に捨てた」

より、

「一時的な退避だったが、本船へ戻れなくなった」

とした方が、経験あるブリッグス船長の行動を説明しやすい。

その判断を引き起こした原因については、

  • 浸水
  • ポンプ・水位把握への不安
  • 荒天
  • 航法上の不確実性
  • アルコール積荷への懸念

のいずれか一つ、または複数が候補になる。

現時点で、

一つだけを選ぶ必要はない。

むしろ事故として考えれば、複数要因が同時に判断へ影響した可能性の方が自然である。

それでも「最有力説=真相」ではない

ここでCASE39のルールへ戻る。

合理的に再構成できることと、史実として確認できることは違う。

われわれは、

ブリッグスが救命艇へ乗る瞬間を見ていない。

退船命令を書いた文書もない。

救命艇も見つかっていない。

生存者もいない。

したがって、

「浸水とポンプが原因だった」

「アルコールが原因だった」

「索が切れた」

のどれも、現在はTHEORYを越えない。

事件は依然として未解決である。

超常現象説はどう扱うべきか

メアリー・セレスト号には、

  • 巨大イカ
  • 海の怪物
  • 宇宙人
  • 異次元
  • 超常現象

まで持ち出されてきた。

しかし、これらは他の自然・事故仮説とはEvidence Classが異なる。

海震や海上竜巻には少なくとも実在する自然現象という基盤がある。

アルコール蒸気には実在する積荷がある。

浸水には実際の測定がある。

一方、巨大生物や超常現象がメアリー・セレスト号を襲ったことを示す物証は何もない。

したがって、

「排除できない説」の一つとして同列に扱うべきではない。

Evidence Class

犯罪説:THEORY / 当時検討されたが未立証
海震・海上竜巻:THEORY / 実在現象だが事件固有の証拠なし
アルコール危険説:THEORY / 実在する積荷・空樽という状況証拠あり
浸水・ポンプ・一時退船:THEORY / 発見状況との整合性が比較的高い
怪物・宇宙人等:RUMOR / FICTION

「謎」を大きくしたのは、証拠だけではなかった

こうして主要説を比較すると、奇妙なことに気づく。

もっとも有名な説が、もっとも証拠の強い説とは限らない。

血の付いた剣。

酔った反乱者。

海賊。

巨大生物。

食卓に残された温かい食事。

これらは印象に残る。

一方、

浸水量の評価。

ポンプ能力。

測深。

クロノメーター。

船長のリスク判断。

一時退避。

といった説明は地味である。

しかし、現実の事故は後者のような小さな条件の積み重ねで成立することが多い。

それでも現在のメアリー・セレスト号は、

「食事の途中で人間だけが消えた幽霊船」

として記憶されている。

なぜそうなったのか。

その原因は1872年の大西洋だけにはない。

事件の12年後、一人の若い作家が発表した短編小説が大きな役割を果たす。

その人物は、

アーサー・コナン・ドイル。

後のシャーロック・ホームズの作者である。

次回は、実際のメアリー・セレスト号から一度離れる。

1872年の海難事件が、どのようにして世界でもっとも有名な「幽霊船」へ変わったのか。

事実ではなかった細部が、なぜ150年後まで史実のように語られているのかを追う。

まとめ

メアリー・セレスト号には、海賊、反乱、殺人、サルベージ詐欺、海震、海上竜巻、アルコール爆発など、数多くの説が提案されてきた。

しかし、同じ証拠で比較すると強弱が見えてくる。

海賊説は、価値のある船と積荷が残されたことを説明しにくい。

反乱・殺人説は当時の司法当局が実際に検討したが、血痕や殺人を示す決定的な物証は得られなかった。

詐欺・共謀説も、それを示す文書、証言、資金関係は確認されていない。

海震や海上竜巻は実在する自然現象だが、メアリー・セレスト号を実際に襲ったことを示す直接証拠がない。

アルコール説には、実在する積荷と9個の空樽という状況証拠がある。

そして浸水・ポンプ・荒天・航法の複合説は、発見時の複数の物証を比較的少ない仮定で説明できる。

そこへ、

「永久放棄ではなく、一時退避したあと本船へ戻れなくなった」

というシナリオを加えると、船だけが航行可能な状態で残った理由も説明しやすくなる。

したがって現時点では、

何らかの船上の危険を認識したブリッグス船長が全員を救命艇へ一時退避させ、その後本船と離別した

という系統の仮説が、もっとも確認事実との整合性が高い。

しかし、その危険が何だったのか。

本当に一時退船だったのか。

どうして本船と離れたのか。

その後10人に何が起きたのか。

直接証拠は残っていない。

だからメアリー・セレスト号は、現在も未解決である。

そして、その証拠の空白には、やがて物語が入り込んでいった。

次回は「幽霊船メアリー・セレスト」が作られていく過程を検証する。

CASE FILE 39|全記事

  1. メアリー・セレスト号とは?|航行可能な船から10人が消えた1872年の未解決事件
  2. 最後の航海に乗っていたのは誰か|ブリッグス船長一家と7人の乗組員
  3. 1872年11月25日まで何が記録されていたのか|ニューヨーク出航から最後の航海日誌
  4. 発見時のメアリー・セレスト号はどんな状態だったのか|Dei Gratia乗組員が見た無人船
  5. ジブラルタルの海事審問は何を疑ったのか|殺人・反乱・詐欺説と「証拠」の検証
  6. なぜブリッグス船長は船を離れた可能性があるのか|ポンプ・浸水判断・天候・航法を検証
  7. 1,701樽のアルコールは原因だったのか|漏洩・蒸気・爆発恐怖説を検証
  8. 海賊・反乱・海震・海上竜巻説はどこまで成立するのか|主要仮説を証拠で比較
  9. 「幽霊船メアリー・セレスト」はどう作られたのか|コナン・ドイルと後世の脚色
  10. 10人はどこへ消えたのか|確認事実・最有力仮説・未解決部分を最終整理

出典・参考資料

  • Royal Museums Greenwich「The mystery of the Mary Celeste」― 海賊・反乱・詐欺・アルコール蒸気など主要仮説、発見時の船体・救命艇・書類・航海計器の状態、現在も未解決であることを確認。
  • Smithsonian Magazine「Abandoned Ship: The Mary Celeste」― 海賊説・反乱説の問題点、Anne MacGregorによる浸水・ポンプ・航法を組み合わせた現代的再構成を参照。
  • Smithsonian Magazine「An Abandoned Merchant Ship Was Discovered Floating in the Atlantic in 1872」― ポンプ・荒天・船長による退船判断を軸とする再構成が、あくまで未確定の仮説であることを確認。
  • Gibraltar Vice-Admiralty Court関連記録― 反乱・殺人・サルベージ共謀が当時実際に検討された一方、犯罪を立証する証拠が確立されなかったことを基礎資料とした。
  • Charles Edey Fay以降のMary Celeste史料研究― 海震説など後世の自然現象説の成立過程を参照。1872年11月25日前後の地震・海震について確実な同時代記録が確認されていないため、事件固有のEvidenceとしては採用していない。

本記事の「総合評価」は、各仮説が真相である確率を数値化したものではありません。発見時の物証、ジブラルタル審問、航海記録との整合性、説明に必要な追加仮定の数を比較した相対評価です。特に海震・海上竜巻・異常波は実在する自然現象ですが、1872年11月25日前後にメアリー・セレスト号を実際に襲ったことを示す直接証拠は確認されていません。また「浸水・ポンプ・一時退船」も現時点で比較的整合性が高い再構成という位置づけであり、確定した真相とはしていません。