THE QUESTION
遺伝子系譜はどうジョセフ・デアンジェロへつながったのか | 家系図から最終確認のDNA鑑定までについて、この回が担う固有の論点は何か。
STORY SO FAR
前回「遺伝子系譜捜査とは何か|DNAデータベースにない人物を親族から絞る仕組み」で確認した論点を受け、この回では遺伝子系譜はどうジョセフ・デアンジェロへつながったのか | 家系図から最終確認のDNA鑑定までについて、この回が担う固有の論点は何か。を扱う。
2018年4月24日、Joseph James DeAngelo Jr.がGolden State Killer事件の容疑者として逮捕された。[5]
FBIは現在、この逮捕について、捜査官がDNA investigative genealogyを使って容疑者の範囲を狭め、最終的にDeAngeloを特定したと整理している。
しかし、「遺伝子系譜でDeAngeloが見つかった」という一文だけでは、何が起きたのかは分からない。
公開された2018年の捜索令状・宣誓供述書を見ると、逮捕までには明確な段階がある。
- 犯罪現場由来DNAから親族につながる手掛かりが得られる
- family lineageを調べる
- DeAngeloがpotential suspectとして浮上する
- DeAngeloの経歴・地理・年齢などを通常捜査で検討する
- 監視下でDeAngelo由来と考えられるDNA試料を取得する
- そのDNAを事件由来プロファイルと直接比較する
- 逮捕へ進む
つまり、遺伝子系譜が出したのは「有罪」という答えではない。
遺伝子系譜が作ったのは、40年間分からなかった未知DNAの持ち主を現実の人物候補へ変換する捜査線だった。
CASE066-06では、その変換がどこまで一次資料で確認できるのかを追う。
2018年第1四半期、「親族」につながるDNA結果が得られた
2018年に公開されたSacramento Countyの捜索令状宣誓供述書には、事件解決の転換点が記録されている。
宣誓供述書によれば、捜査側は2018年第1四半期に、Smith事件由来のDNA証拠について追加検査を行った。
その結果、あるrelativeがidentifiedされた。
公開版では、そのrelativeを特定する部分は黒塗りになっている。
その後、
subsequent investigation into the family lineage
によって、Joseph James DeAngelo Jr.がpotential suspectとして特定された、と宣誓供述書は記している。
この文章は重要である。
DNA検索からDeAngelo本人へ直接ジャンプしたとは書いていない。
間にfamily lineage investigationがある。
つまりCASE066-05で説明した一般的なIGGの構造――親族手掛かりから家系を調査し、人物候補へ絞る――が、この事件の令状資料にも現れている。
公開令状は、系譜データベース名を明示していない
Golden State Killer事件については、後年さまざまな報道や研究で特定のgenealogy service名が語られている。
しかしCASE066では、一次資料と後年の再構成を混ぜない。
公開された令状の該当箇所で確認できるのは、
- 追加DNA検査
- relativeのidentified
- family lineage investigation
- DeAngeloのpotential suspect化
である。
少なくともこの公開箇所には、使用したgenealogy database名は明記されていない。
FBIの現在の説明も、この事件をforensic/investigative genetic genealogyの成功例として扱っているが、CODISとは異なるnon-law-enforcement DNA databasesを使う方式であるという一般説明に留まる。
したがって本稿では、
「この特定サイトに入れたらDeAngeloが出た」
という単純な叙述は採用しない。
事件を理解するうえで必要なのはサービス名ではなく、親族手掛かりから家系調査を行い、DeAngeloをpotential suspectへ絞ったという捜査構造である。
DeAngeloが候補になった後、DNA以外の条件が重なった
遺伝子系譜から候補者名が出ても、その人物が事件と無関係なら意味はない。
令状宣誓供述書は、DeAngeloがpotential suspectになった後、その人物と過去の事件を結びつける複数の事情を列挙している。
公開部分で確認できるのは、たとえば次のような点である。
- 1945年生まれで、事件時期の想定年齢と整合する
- Sacramento地域で育った
- 1973年にFolsom High Schoolへ通っていた
- その後Exeterで警察官として勤務した
- Visaliaに近い地域で生活・勤務していた時期がある
- 後にSacramento地域へ戻り、Auburn Police Officerとして勤務した
令状は、こうした地理・職歴・年代要素を、事件系列との整合を検討する材料としている。
ここで重要なのは、
DNA系譜 → 名前
の直後に、
名前 → 通常捜査による適合性確認
が入っていることだ。
遺伝的な親族関係だけでは足りない。
事件当時その人物が何歳だったか。
どこに住み、どこで働いていたか。
事件地域へ到達できたか。
既存の目撃・人物像・捜査情報と矛盾しないか。
こうした条件を重ねて、候補者としての優先度を上げていく。
「候補者」と「DNAが一致した人物」の間にはまだ距離があった
DeAngeloがpotential suspectになった時点でも、犯罪現場由来DNAと本人のDNAを直接比較したわけではない。
次に必要なのは、
DeAngelo本人に由来すると考えられるDNA試料を得て、事件由来DNAと直接比較すること
だった。
これがCASE066-05で説明したIGGの最終段階である。
系譜DNAは候補者を作る。
最終確認は、別の直接DNA比較へ戻る。
公開令状は、この確認過程を具体的に記録している。
4月18日、車のドアハンドルから試料を採取した
宣誓供述書によれば、2018年4月18日、捜査側はDeAngeloを監視していた。[1]
DeAngeloがRosevilleのHobby Lobby店舗へ入り、その車が公共の駐車場に停車している間、捜査官は運転席側ドアハンドルをswabした。
この試料はSacramento County District Attorney Crime Labへ送られた。
4月20日に得られた結果について、宣誓供述書は、このドアハンドル試料には3人分のDNAが混在していたと記載している。
その中から、試料全体の47%を占めるcontributorを分離して評価できた。
令状によれば、そのcontributorは、Orange CountyおよびVentura County側で事件と結びつけられていたDNAプロファイルとconsistentだった。
宣誓供述書に記載されたlikelihood ratioは、少なくとも100億倍だった。
ただし、この数字は文脈なしに「100億分の1で別人」と読み替えてはいけない。
令状が記録しているのは、特定のDNA mixtureについて、
DeAngelo由来のcontributorと未知の人物を含むという仮説
と
すべて未知の無関係人物という仮説
のどちらが観察結果をどれだけよく説明するかというlikelihood ratioである。
この記事では、その統計モデルを勝手に別の確率表現へ変換しない。
ドアハンドル試料には「混合」という弱点があった
車のドアハンドルは、本人以外が触れる可能性がある。
実際、令状でも3人分のDNA mixtureだった。
そのため捜査側は、さらに解釈しやすい試料を求めた。
ここにも重要な捜査上の区別がある。
4月18日の試料で強い支持が得られたからといって、そこで工程を終えていない。
より明確な本人由来試料を追加で取得し、確認を重ねた。
4月23日、ごみに出されたティッシュからDNAを得た
宣誓供述書によれば、2018年4月23日、捜査側はDeAngelo宅前の公道にごみ収集のため出されていたtrash canから、複数の試料を回収した。[1]
その時点までの3日間の監視で、捜査側はDeAngeloをその住居で確認していた。
回収された物のうち、解釈可能なDNA結果が得られたのはpiece of tissueだった。
このティッシュ試料について、令状は事件側プロファイルとの比較結果を記録している。
そのlikelihood ratioは、少なくとも47.5 septillion倍、すなわち非常に大きな値だった。
ここでも、「別人である確率がその逆数」という意味には変換しない。
令状に書かれた統計表現をそのまま、
事件由来プロファイルと同一contributorである仮説の方が、未知の無関係人物である仮説より観察DNA結果をはるかによく説明した
という意味で扱う。
なぜ二つの試料を取ったのか
4月18日の車ドアハンドルと、4月23日のティッシュ。
この二段階は、IGGが「最終DNA証明」ではないことをよく示している。
系譜調査によってDeAngeloはpotential suspectになった。
そこで通常捜査の監視へ移る。
監視下で、本人と関連づけられる試料を得る。
一つ目は混合試料だった。
さらに二つ目を得る。
そして事件側DNAと直接比較する。
概念的には次の流れになる。
「系譜サイトが犯人を発見した」という説明では、この重要な後半が消えてしまう。
D03で見ると、2018年のGSK捜査はどこに当たるのか
CASE066-05で作成したD03を、Golden State Killer事件へ当てはめる。
1. CRIME-SCENE DNA
長年保存され、複数事件を結んでいた未知犯DNA。
2. CODIS SEARCH / NO PERSON MATCH
DNAは存在していたが、通常の法執行DNA照合から人物名には届いていなかった。
3. FGG / RELATIVE LEAD
2018年第1四半期の追加DNA検査でrelativeがidentifiedされたと令状は記録する。
4. FAMILY LINEAGE RESEARCH
そのrelativeを起点とするfamily lineage investigationが行われる。
5. INVESTIGATIVE CANDIDATE
Joseph James DeAngelo Jr.がpotential suspectとして浮上する。
6. TRADITIONAL INVESTIGATION
年齢、居住、勤務、事件地域との関係などを調べ、監視を行う。
7. CONFIRMATORY DNA
4月18日のドアハンドル、4月23日のティッシュから得たDNAを事件プロファイルと比較する。
8. ARREST
FBIの年表では4月24日、Sacramento law enforcementがDeAngeloを逮捕した。
こうして見ると、IGGは全工程の中央に位置している。
入口でも最終証明でもない。
長年存在していた未知DNAと、直接比較できる実在人物との間をつなぐ橋だった。
「捨てられたDNA」の意味
DeAngelo本人から正式な口腔swabを採取してから逮捕したわけではない。
逮捕前の確認では、車ドアハンドルと公道上のごみから得られた試料が使われた。
この種のsurreptitious collectionは、捜査対象へ警告を与えずに直接DNA比較を行う手段になる。
ただし、法的評価は法域や取得状況によって異なる。
CASE066-06では、令状が実際にどのような試料を記録しているかだけを扱い、遺棄物DNA一般の憲法論を広げない。
また、車ドアハンドルの試料はmixed DNAだったため、
ドアハンドルDNA = DeAngelo本人DNAと完全に単純な単独試料
とも表現しない。
一次資料どおり、混合試料から一つのcontributorが事件側プロファイルとconsistentとされた、と記述する。
DeAngeloの経歴は「DNAの代わり」ではない
令状には、DeAngeloの警察官歴、居住地域、年齢、事件地域との接点などが記録されている。
これらを読むと、
経歴が怪しかったから犯人だと分かった
という印象を持ちやすい。
しかし証拠構造は逆である。
DeAngeloの名前が系譜調査から候補として出た。
その後に経歴を調べると、事件系列との整合が複数見つかった。
そして最後に直接DNA比較が行われた。
つまり、
経歴情報は系譜候補を評価する通常捜査材料であって、DNA確認の代替ではない。
この順序を崩すと、後知恵で人物像を犯人像へ当てはめただけのように見えてしまう。
逮捕時点でも「司法上の有罪確定」ではない
4月24日の逮捕は、捜査上極めて大きな到達点だった。
公開令状では、捜査官がDeAngeloを事件に結びつけるprobable causeを示し、逮捕・捜索へ進んだ過程が記録されている。
しかし、令状は判決文ではない。
そこに書かれた事実・意見は、令状発付のために捜査側が示したprobable causeの記録である。
2020年にDeAngeloが何を認め、何件について法的責任が確定し、どのような刑を受けたかは、別の司法段階である。
それはCASE066-07で扱う。
CASE066-06では、
「なぜDeAngeloが調べるべき人物となり、なぜ逮捕可能なレベルの直接DNA証拠へ進んだのか」
までで止める。
検証ポイント|DeAngelo特定について混同しやすい6点
genealogy databaseにDeAngelo本人のDNAが登録されていた
一次資料からはそのように言えない。
公開令状が確認できるのはrelativeのidentifiedとfamily lineage investigationであり、DeAngelo本人が系譜サービス利用者だったとは書かれていない。
親族matchが出た瞬間にDeAngelo一人へ決まった
不正確。
令状は親族手掛かりの後にfamily lineage investigationがあったと記録している。そこからDeAngeloがpotential suspectになった。
family treeだけで逮捕した
不正確。
候補化後に通常捜査・監視が行われ、DeAngeloに関連づけられたDNA試料が事件由来プロファイルと比較された。
車ドアハンドルだけで最終確認した
不正確。
4月18日のドアハンドル試料は3人分の混合だった。4月23日には追加でごみ中のティッシュを取得し、より強い比較結果が記録されている。
「47.5 septillion倍」は、別人である確率がその逆数という意味
不正確。
令状が示すのはlikelihood ratioであり、二つの仮説のもとで観察されたDNA結果がどれだけ起こりやすいかを比較した統計量である。単純な「犯人確率」へ変換しない。
4月24日の逮捕で全事件が司法上確定した
不正確。
逮捕・令状は捜査とprobable causeの段階である。有罪答弁と量刑は2020年の別の司法手続になる。
40年分の「未知DNA」が、現実の人物へ接続された
Golden State Killer事件の転換点は、単に新しいDNA検査が高性能になったことではない。
2001年にはすでにDNAが複数事件をつないでいた。
2016年にも、捜査側は未知犯DNAを持っていた。
足りなかったのは、そのDNAを持つ人物へ到達するための現実的な候補生成経路だった。
2018年、親族につながるDNA手掛かりが得られた。
family lineageが調べられた。
DeAngeloがpotential suspectになった。
その経歴が通常捜査で検討された。
監視によって本人由来と考えられる試料が取得された。
そして事件由来DNAとの直接比較が行われた。
この連続工程の中で初めて、
「名前のないDNA」
が
「Joseph James DeAngeloという調査可能な実在人物」
へ変わった。
遺伝子系譜の革新性は、DNAだけで犯人を証明したことではない。
従来のデータベースでは止まっていた未知DNAから、通常捜査と直接DNA確認へ進める人物候補を作ったことにある。
次のCASE066-07では、捜査の話から司法の話へ移る。
2018年の逮捕後、複数郡にまたがる事件がどのように整理され、2020年の有罪答弁と量刑によって何が法的に確定したのかを追う。
FACT CHECK|出典・参考資料
- [1] The redacted warrant affidavit is the controlling source for the case-specific sequence used in this article: first-quarter 2018 DNA testing identified a relative; investigation of the family lineage led to Joseph James DeAngelo Jr. as a potential suspect; a car-door sample was collected April 18; additional trash samples were collected April 23; and the tissue sample produced an interpretable DNA result strongly supporting the event-profile comparison
- [2] The public affidavit redacts the identity of the relative and does not, in the visible passage relied on here, name the genealogy database. This article therefore does not present any particular genealogy service as a locked case fact
- [3] The affidavit states that the April 18 car-door sample was a three-person mixture and records a likelihood ratio of at least 10 billion for the tested proposition. It records at least 47.5 septillion for the April 23 tissue comparison. These values are reported only as affidavit likelihood ratios and are not converted into a simplistic probability of guilt
- [4] The warrant/affidavit is a probable-cause document, not a final adjudication. CASE066-07 handles DeAngelo’s later plea and sentencing separately
- [5] FBI’s historical timeline is used for the April 24, 2018 arrest date and for the high-level conclusion that DNA investigative genealogy narrowed the suspect pool and ultimately identified DeAngelo
- [6] Sacramento County DA’s current Cold Case Science and Technology Unit page independently confirms that the office was part of the genealogy team that identified DeAngelo and describes IGG as a multi-family-tree, lineage-elimination process
Golden State Killer――遺伝子系譜で追い詰めるまで 第6回 全8回 全8回を見る
- 01 Golden State Killerとは何だったのか|40年以上続いた捜査の全体像
- 02 複数の呼称はどう一つにつながったのか|East Area RapistからGolden State Killerへ
- 03 Golden State Killer|DNAは何をつないだのか|複数地域の事件を結びつけた法科学
- 04 Golden State Killer|なぜDNAがあっても捕まらなかったのか|CODISと長期未解決捜査の壁
- 05 Golden State Killer|遺伝子系譜捜査とは何か|DNAデータベースにない人物を親族から絞る仕組み
- 06 Golden State Killer|遺伝子系譜からデアンジェロ特定まで
- 07 Golden State Killer|逮捕後、何が司法で確定したのか|有罪答弁と終身刑
- 08 Golden State Killer事件は捜査をどう変えたのか|遺伝子系譜とプライバシー