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月着陸船Aquariusはどう「救命艇」になったのか壊れたOdysseyからの脱出

月着陸船Aquariusはどう「救命艇」になったのか|壊れたOdysseyからの脱出

宇宙事故

1970年4月13日。

Apollo 13のサービスモジュールで酸素タンク2番が破損したあと、残った酸素タンク1番の圧力も下がり続けていた。

酸素を失えば、3基の燃料電池も発電できなくなる。

司令船Odysseyには地球再突入用のバッテリーが残っていた。しかし、ここでその電力まで使い切れば、最後に大気圏へ戻るための宇宙船がなくなる。

事故から約1時間半。

Mission Controlは、一つの選択肢を現実のものとして考え始めた。

「月着陸船を救命艇として使う」

月着陸船Aquariusは、本来2人の宇宙飛行士を月周回軌道から月面へ運び、再び月周回軌道へ戻すための機体である。

地球へ帰るための宇宙船ではない。

3人を約4日間収容することも想定されていない。

それでもAquariusには、Odysseyが失いつつあったものが残されていた。

酸素。

電力。

生命維持装置。

通信。

誘導装置。

そして、宇宙船全体の軌道を変えられる降下用エンジン。

月へ降りるために積まれていた設備を、地球へ帰るために使う。

Apollo 13の生還ミッションは、ここから始まった。


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アポロ13号特集|全10回

  1. 第1回 アポロ13号とは?|月面着陸から「生還ミッション」へ変わった6日間
  2. 第2回 アポロ13号は何をするはずだったのか|3人の乗員とフラ・マウロ月面着陸計画
  3. 第3回 「Houston, we’ve had a problem」|アポロ13号で酸素タンクが爆発した夜
  4. 第4回 なぜアポロ13号の酸素タンクは爆発したのか|地上試験から事故までを追う
  5. 第5回 月着陸船Aquariusはどう「救命艇」になったのか|壊れたOdysseyからの脱出【現在の記事】
  6. 第6回 電力・水・CO2をどう切り詰めたのか|アポロ13号を生かした即席の生命維持策
  7. 第7回 アポロ13号はどう地球へ戻ったのか|月を回る自由帰還軌道とエンジン噴射
  8. 第8回 停止していたOdysseyを再起動せよ|アポロ13号、再突入から太平洋着水まで
  9. 第9回 アポロ13号事故は何を変えたのか|事故調査委員会の結論と酸素タンク再設計
  10. 第10回 映画『アポロ13』はどこまで実話なのか|人物・台詞・Mission Controlを史実と比較

Odysseyには、あとわずかな電力しか残されていなかった

酸素タンク事故後、Mission Controlが最も警戒していたものの一つが、司令・機械船の電力だった。

ApolloのCommand and Service Moduleでは、通常時の電力をサービスモジュールに搭載した3基の燃料電池から供給する。

ところが燃料電池を動かすためには酸素が必要だった。

酸素タンク2番は失われた。

酸素タンク1番の圧力も低下している。

燃料電池1番と3番はすでに機能を失い、最後に残った燃料電池2番も、酸素供給がなくなれば停止する。

Odysseyには独立したバッテリーがある。

しかし、それは最後まで使ってよい電源ではない。

Command Moduleのバッテリーには、地球へ戻る最後の段階で重要な役割があった。

再突入の前にOdysseyを再起動し、誘導、姿勢制御、通信、パラシュートなどのシステムを動かさなければならない。

今ここで電力を消費すれば、地球まで戻っても最後の再突入ができなくなる可能性がある。

NASAの記録では、通常の手順でOdysseyを使用し続けた場合、残された電力は約15分しかないと見積もられる状況まで追い込まれていた。

必要なのはOdysseyを「使い続ける」ことではなかった。

一度眠らせ、最後の再突入まで保存することだった。

ただし、Odysseyそのものが爆発したわけではない

ここではタイトル上「壊れたOdyssey」と表現しているが、正確には区別が必要である。

乗員がいるCommand Moduleそのものが爆発したわけではない。

事故の中心は、その後方に接続されたService Moduleだった。

サービスモジュール内部の酸素タンク2番が破損し、酸素供給と燃料電池による発電能力を失った。

その結果、Command Moduleを含むCommand and Service Module全体を通常状態で運用できなくなったのである。

Odysseyの司令船部分は、むしろ最後の地球再突入まで守らなければならない存在だった。

なぜAquariusには電力と酸素が残っていたのか

Apollo宇宙船には、もう一つ独立した有人宇宙船が接続されていた。

Lunar Module Aquarius。

月着陸船である。

第2回で見たように、本来の計画ではラヴェルとヘイズがAquariusへ乗り移り、スワイガートをOdysseyに残してフラ・マウロへ降りる予定だった。

月着陸船はCommand and Service Moduleから離れて単独で月面へ降り、再び月周回軌道まで戻らなければならない。

そのためAquariusには、独立して活動するためのシステムが搭載されていた。

システム Aquariusが持っていた機能
電力 独立したバッテリー
酸素 月面活動用を含む独立した酸素供給
生命維持 船内気圧、酸素、CO2除去、温度管理など
飲料・冷却などに使用する独立した貯蔵系統
通信 地上およびOdysseyとの通信
誘導 独立した誘導・航法・制御システム
姿勢制御 Reaction Control System
推進 降下用エンジン・上昇用エンジン

つまりAquariusは単なる「月へ降りる部屋」ではない。

短期間なら、Command Moduleから独立して人間を生存させ、通信し、航法を行い、宇宙空間を移動できる一つの宇宙船だった。

この独立性がApollo 13を救うことになる。

57時間35分|ラヴェルとヘイズがAquariusへ入る

事故発生から約1時間40分。

酸素タンク1番を救おうとする試みは成功せず、圧力は下がり続けていた。

Mission Controlは、Command and Service Moduleを大幅に停止し、Aquariusを生命維持の中心へ切り替える準備を始めた。

NASAのMission Operations Reportでは、飛行開始から57時間35分ごろ、船長ラヴェルと月着陸船操縦士ヘイズがAquariusへ入り、通信と生命維持機能を確立し始めたと記録されている。

スワイガートはOdyssey側に残った。

Command Moduleのシステムを停止するためである。

月着陸船操縦士であるヘイズはAquariusのシステムに精通している。

ラヴェルとともに電源を入れ、生命維持、通信、誘導など、救命艇として必要になる機能を起動していった。

通常の月面着陸手順とは目的がまったく異なる。

Aquariusを着陸準備状態へするのではない。

3人が数日間生存し、宇宙船全体を地球へ導くための状態へする。

なぜ急いでAquariusを起動しなければならなかったのか

Aquariusは事故発生時、すべてのシステムが完全運転していたわけではない。

月面着陸の本格的な準備は、もっと後に始める予定だった。

ところがOdysseyの電力は失われつつある。

司令船側の電力が完全になくなる前に、いくつかの重要な情報をAquariusへ引き継ぐ必要があった。

特に重要なのが宇宙船の姿勢・航法情報だった。

宇宙船が宇宙空間のどちらを向いているのか。

どの軌道を飛んでいるのか。

エンジンをどの方向へ噴射すればよいのか。

これらを把握できなければ、後にAquariusのエンジンを使って地球帰還軌道へ変更することができない。

そのためMission Controlと乗員は、Odyssey側で保持している誘導情報を利用しながら、Aquariusの誘導システムを立ち上げる必要があった。

「電気がなくなってから月着陸船へ移ればよい」わけではなかった。

Odysseyがまだ動いている間に、宇宙船の頭脳をAquariusへ移さなければならなかった。

58時間40分|Odysseyを停止した

Apollo 13 Mission Reportでは、Command and Service ModuleのパワーダウンとLunar Moduleの起動は、飛行開始から58時間40分で完了したとされている。

事故から3時間に満たない。

Odysseyでは、地球再突入まで不要なシステムを次々に停止した。

通常なら宇宙船を安全に維持するためONにしておく機器まで、可能な限り電源を切っていく。

目的はただ一つ。

最後の再突入に必要なバッテリーを残すことである。

NASAのMission Operations Reportによると、この時点までにCommand Moduleの再突入用バッテリー120Ahのうち、使用されたのは約20Ahだった。

残された電力を保存できれば、数日後にOdysseyを再起動できる可能性がある。

こうして宇宙船の役割は反転した。

本来の役割 事故後
Odyssey 3人を月まで運び、地球へ帰還 停止して再突入用に保存
Aquarius 2人を月面へ降ろして戻す 3人の生命維持・誘導・推進を担当

Apollo 13は、設計時に想定された使い方から完全に外れた状態へ入った。

Aquariusは「2人用・45時間」の宇宙船だった

ただし、Aquariusへ移れば問題が解決するわけではない。

NASAの公式ミッション解説では、月着陸船の設計上の使用時間は約45時間だった。

しかも本来の乗員は2人。

Apollo 13で求められるのは、

3人を約90時間近く生存させること

だった。

単純に考えれば、人数は1.5倍。

使用時間は約2倍。

酸素、電力、水、CO2除去能力など、すべての消耗品をそのまま使えば足りなくなる可能性がある。

Mission Controlがまず行ったのは、Aquariusに残された資源の棚卸しだった。

酸素については、意外にも余裕があった

最初に確認されたのが酸素だった。

Aquariusには、本来の月面着陸・月面活動のために多くの酸素が搭載されていた。

降下段の酸素タンク。

上昇段側の酸素。

さらに月面活動用のPortable Life Support System、いわゆる宇宙服バックパックにも酸素がある。

月面着陸は中止されたため、これらを本来の用途で使う必要はない。

その酸素を3人の生命維持へ回せる。

NASAの計算では、酸素そのものは帰還まで十分な量があることが分かった。

実際、Aquariusを切り離した時点でも酸素にはかなりの余裕が残っていた。

Apollo 13の最大の消耗品問題は、酸素ではなかった。

本当に厳しかったのは「電力」と「水」だった

Aquariusは燃料電池を持っていない。

電力源はバッテリーである。

月面着陸ミッションなら、その容量で十分だった。

しかし今回は約4日間にわたって、

  • 生命維持
  • 通信
  • 誘導
  • 姿勢制御
  • 計器

を維持しなければならない。

NASAの記録によれば、Aquariusには合計約2,181Ahのバッテリー容量があった。

Mission Controlは非重要機器を停止し、通常より大幅に消費電力を落とす手順を作った。

その結果、最終的にはAquarius切り離し時にも約20%の電力を残すことができた。

しかし事故直後には、それが可能かどうか分かっていたわけではない。

さらに電力消費を減らすと、別の問題が発生する。

電子機器が出す熱も減るからである。

宇宙船内は次第に冷えていった。

後には船内温度が約38°F、約3℃まで下がったとNASAは記録している。

節電するほど、人間にとっては過酷になる。

水は「飲むため」だけに必要ではなかった

もう一つ重大だったのが水である。

乗員が飲むための水だけではない。

Apollo宇宙船では水を機器の冷却にも使用する。

電子機器を動かせば熱が出る。

その熱を宇宙空間へ捨てるためにも、水が必要だった。

つまり、

水不足 → 人間が飲めない

だけではない。

水不足 → 機器を冷却できない → 必要なシステムを動かせない

という問題でもある。

事故直後の計算では、現在の使用量を続ければ再突入より前に水が不足する可能性があった。

そこで乗員の飲料水も、機器の使用も厳しく制限される。

電力と水をどこまで減らせるか。

これがAquariusを救命艇として成立させる大きな条件だった。

そしてCO2という別の問題が始まる

酸素が十分でも、人間は生存できない。

呼吸によって吐き出される二酸化炭素を船内から除去する必要がある。

AquariusにはCO2を吸収する水酸化リチウムのカートリッジがある。

しかし、これも本来は2人用である。

3人が長時間生活すると、CO2濃度が想定以上に上昇する。

Odyssey側には交換用の水酸化リチウムカートリッジが十分残っていた。

ところが形状が違った。

Command Module側は角形。

Lunar Module側は異なる形状の受け口。

そのまま取り付けることができない。

Aquariusという救命艇が機能し始めた直後から、Mission Controlには次の技術課題が発生していた。

「使える吸収材はある。しかし、取り付けられない」

電力、水、CO2をどのように管理したのかは、第6回で詳しく追う。

なぜAquariusをそのまま地球まで降ろせないのか

Aquariusが生命維持、通信、航法、推進を担当できるなら、そのまま地球へ着陸すればよいようにも見える。

しかし、それはできない。

Lunar Moduleは、地球大気圏へ再突入するための宇宙船として設計されていない。

月には大気がほぼない。

Aquariusは月周回軌道から降下し、月面へ着陸する機体であり、地球へ秒速約11kmで突入する際の高温に耐えるCommand Moduleのような再突入用耐熱構造を持たない。

地球へ帰る最後の区間では、必ずOdysseyへ戻らなければならない。

つまり救命計画は、

Aquariusへ避難して終わり

ではない。

最終的には、数日間ほぼ停止させていたOdysseyを再び起動しなければならない。

Aquariusが担うのは、事故現場から地球の入口まで3人を運ぶことだった。

だからOdysseyのバッテリーを守る必要があった

ここで、事故直後にOdysseyを急いで停止した理由がもう一度つながる。

Odysseyは今は使えない。

しかし最後には絶対に必要になる。

そのため、

  1. 事故直後にOdysseyを停止する
  2. Aquariusで数日間生き延びる
  3. Aquariusで宇宙船を地球へ導く
  4. 地球接近後にOdysseyを再起動する
  5. Aquariusを切り離す
  6. Odysseyで再突入する

という、通常のApollo計画には存在しない運用が必要になった。

しかもOdysseyのバッテリーは保存するだけではなく、後にはAquariusから電力を送り返して充電するという、本来とは逆方向の電力運用まで行われる。

Apollo 13は、宇宙船を設計どおり使うミッションではなくなっていた。

Aquariusの降下用エンジンが「主エンジン」になった

救命艇としてのAquariusには、生命維持以外にも極めて重要な機能があった。

Descent Propulsion System、月着陸船の降下用エンジンである。

本来はAquariusを月周回軌道から減速させ、月面へ降ろすためのエンジンだった。

事故後は、このエンジンでOdyssey、Service Module、Aquariusをつないだ宇宙船全体を動かす。

サービスモジュールにも大型のService Propulsion Systemエンジンがある。

しかし酸素タンク事故でサービスモジュールがどこまで損傷したのか分からなかった。

Mission Controlは、損傷したService Moduleの主エンジンへ依存する帰還計画を避けた。

残った信頼できる大型推進装置として、Aquariusの降下用エンジンが使われる。

月へ降りるためのエンジンが、月を回って地球へ戻るためのエンジンになった。

このエンジンをいつ、どの方向へ、何秒間噴射したのかは、第7回の帰還軌道で詳しく扱う。

Mission Control側でも「存在しない手順」を作っていた

Aquariusを救命艇として使うと決めても、乗員に渡せる完成済みの手順書がすべて存在したわけではない。

地上ではFlight Director、各システム担当管制官、宇宙飛行士、メーカーの技術者たちが、実際の残存資源と機器状態を確認しながら新しい手順を作っていった。

手順は地上のシミュレーターで試す。

問題がないことを確認する。

その内容をCapComが宇宙船へ読み上げる。

乗員は紙のチェックリストへ変更内容を書き込み、宇宙船で実行する。

通常のミッションでは何か月も前から作られる運用手順の一部が、Apollo 13では数時間単位で作られていった。

救命の鍵は「一人の天才的なアイデア」ではない。

宇宙船の現在状態を把握し、地上で検証し、実行可能な手順へ変換して乗員へ送るという、Mission Control全体の運用システムだった。

「月着陸船を救命艇にする」は、単純な避難ではなかった

映画や短い解説では、Apollo 13の救助は「司令船が壊れたので月着陸船へ避難した」と説明されることがある。

しかし実際には、それだけでは足りない。

Aquariusを使うためには、少なくとも次の問題を同時に解かなければならなかった。

問題 必要だった対応
Odysseyの電力喪失 再突入用バッテリーを残してパワーダウン
Aquariusが未起動 生命維持・通信・誘導を急速に立ち上げる
航法 Odysseyの姿勢情報をAquariusへ引き継ぐ
定員 本来2人用を3人で使用
使用時間 約45時間想定を約90時間近くへ延長
電力 非重要機器を停止して徹底節電
飲料・冷却水を厳格に管理
CO2 Command Module側の吸収材を利用する方法を開発
推進 Aquariusの降下用エンジンで宇宙船全体を動かす
再突入 最後にOdysseyを再起動する

つまりAquariusは、単なる「避難場所」ではない。

生命維持装置、管制室、航法装置、電源、推進機関を兼ねた代替宇宙船になった。

FACT CHECK|Aquariusは3人用の非常用宇宙船として設計されていた?

違う。

Aquariusは2人を月面へ運ぶLunar Moduleとして設計されていた。

NASAのApollo 13解説では、設計上の使用時間は約45時間で、それを3人のために約90時間近くまで延ばす必要があったと整理されている。

「非常時には3人で数日間使える」という通常仕様だったわけではない。

FACT CHECK|Aquariusへ移ればOdysseyはもう不要だった?

不要ではない。

Aquariusは地球大気圏再突入用の機体ではない。

最後にはOdysseyのCommand Moduleが必要だった。

そのため事故直後にOdysseyを停止し、再突入用バッテリーやその他の資源を保存する必要があった。

FACT CHECK|月着陸船には十分な酸素がなかった?

酸素は比較的余裕があった。

月面着陸が中止されたため、降下・上昇段や月面活動用として準備されていた酸素を生命維持へ使用できた。

より厳しい制約になったのは電力と水、そして3人が長時間生活することで増えていく二酸化炭素だった。

FACT CHECK|Aquariusだけで地球帰還を完結した?

これも正確ではない。

Aquariusは事故後の大部分で生命維持、姿勢制御、航法、推進を担当した。

しかし最後の大気圏再突入と着水を担当したのはOdysseyである。

Apollo 13の生還は、

「AquariusがOdysseyの代わりになった」

というより、

「AquariusでOdysseyを最後まで温存し、最後に役割をOdysseyへ戻した」

と考える方が正確である。

なぜApollo 13では、この方法が可能だったのか

Apollo 13の生還には、多くの即席対応が必要だった。

しかし、すべてをゼロから作ったわけではない。

Aquariusには最初から、月面着陸という非常に独立性の高い任務を実行するため、

  • 独立電源
  • 独立した生命維持系
  • 酸素
  • 通信
  • 誘導
  • 姿勢制御
  • 推進系

が搭載されていた。

そしてOdysseyとAquariusはドッキングトンネルで接続され、乗員が行き来できた。

月面着陸用の独立性が、そのまま非常時の冗長性として機能したのである。

ただし、その能力は「3人を地球へ4日間運ぶ」という用途を保証するものではない。

利用できる機能はあった。

あとは、その資源を帰還まで持たせる運用を作らなければならなかった。

まとめ|月へ降りる宇宙船が、地球へ帰る宇宙船になった

酸素タンク事故によって、Odysseyは通常の電力を維持できなくなった。

しかしCommand Moduleの再突入用バッテリーを使い切ることはできない。

そこでNASAはOdysseyを停止し、本来月面着陸に使用するAquariusへ生命維持と宇宙船制御の役割を移した。

飛行開始から約57時間35分、ラヴェルとヘイズがAquariusへ入り、通信と生命維持系の立ち上げを開始。

58時間40分にはCommand and Service ModuleのパワーダウンとLunar Moduleの起動が完了した。

その瞬間から、Apollo 13の中心はAquariusになった。

ただしAquariusは2人・約45時間程度の運用を想定した月着陸船だった。

必要なのは3人・約90時間近い運用である。

酸素には比較的余裕があった。

一方で電力、水、二酸化炭素除去能力には厳しい制限があった。

さらにAquariusは地球大気圏へ再突入できないため、最後にはOdysseyを復活させなければならない。

月へ降りるために作られた宇宙船を救命艇へ変えることは、単なる「避難」ではなかった。

宇宙船の各システムを本来とは違う目的で組み直し、限られた資源を最後の1時間まで配分する作業だった。

そしてAquariusを起動したことで、次の問題が見えてくる。

3人が帰還まで生き続けるためには、電力も、水も、二酸化炭素除去能力も、そのままでは足りない。

Mission Controlは今度は、宇宙船そのものではなく、残された資源との戦いを始めることになる。



CASE FILE 14|アポロ13号特集 全10回

  1. 第1回 アポロ13号とは?|月面着陸から「生還ミッション」へ変わった6日間
  2. 第2回 アポロ13号は何をするはずだったのか|3人の乗員とフラ・マウロ月面着陸計画
  3. 第3回 「Houston, we’ve had a problem」|アポロ13号で酸素タンクが爆発した夜
  4. 第4回 なぜアポロ13号の酸素タンクは爆発したのか|地上試験から事故までを追う
  5. 第5回 月着陸船Aquariusはどう「救命艇」になったのか|壊れたOdysseyからの脱出【現在の記事】
  6. 第6回 電力・水・CO2をどう切り詰めたのか|アポロ13号を生かした即席の生命維持策
  7. 第7回 アポロ13号はどう地球へ戻ったのか|月を回る自由帰還軌道とエンジン噴射
  8. 第8回 停止していたOdysseyを再起動せよ|アポロ13号、再突入から太平洋着水まで
  9. 第9回 アポロ13号事故は何を変えたのか|事故調査委員会の結論と酸素タンク再設計
  10. 第10回 映画『アポロ13』はどこまで実話なのか|人物・台詞・Mission Controlを史実と比較

出典・参考資料

  • Apollo 13 Mission Report
    Command and Service Moduleのパワーダウン、Lunar Module起動、生命維持・推進へのLM利用、再突入用バッテリーの保存などの確認に使用。
  • “`

  • NASA「Apollo 13: Mission Details」
    OdysseyとAquariusの役割、Command Moduleの残存電力、LMを約45時間から約90時間近く使用する必要性、酸素・電力・水などの消耗品評価の確認に使用。
  • NASA「Apollo 13: The Successful Failure」
    Aquariusを“lifeboat”として使用した経緯、LMの酸素と降下用エンジンが帰還に果たした役割の確認に使用。
  • NASA「Apollo 13 Mission Challenged Crew, Launch Team」
    Command Module停止、LMへの移動、生命維持、軌道変更と消耗品管理をApollo 13帰還の主要課題として確認するために使用。
  • Apollo 13 Press Kit
    Lunar Moduleの電源、酸素、水、環境制御、通信、誘導、Reaction Control System、Descent Propulsion Systemなど、本来のLMシステム構成の確認に使用。
  • NASA Mission Operations Report Apollo 13
    約57時間35分からのLM移行、58時間40分でのCSMパワーダウン完了、Command Module再突入用バッテリー消費量などの時系列確認に使用。
  • “`

資料について

本記事では「Aquariusが救命艇になった」という結果だけではなく、Command Moduleを停止する必要性、Lunar Moduleが独立した酸素・電力・生命維持・誘導・推進機能を持っていた理由をNASA公式資料から整理しています。

「Aquariusは2人・45時間用」という数値はNASAのApollo 13公式ミッション解説に基づきます。資料によってLMの公称生命維持時間の表現には若干の差がありますが、本記事ではNASAがApollo 13の消耗品問題を説明する際に使用している「45時間を約90時間へ延ばす」という整理を採用しています。

なお、タイトル中の「壊れたOdyssey」はCommand Module自体が爆発したという意味ではありません。事故はService Moduleの酸素系統で発生し、その結果としてCommand and Service Moduleを通常運用できなくなったことを指しています。