THE QUESTION
MKULTRAは何を試していたのか? | LSDだけではない行動変容研究の範囲
STORY SO FAR
前回「MKULTRAはどう運営されたのか?|149サブプロジェクトと資金・研究機関のネットワーク」で確認した論点を受け、この回ではMKULTRAは何を試していたのか? | LSDだけではない行動変容研究の範囲を扱う。
MKULTRAという名前から最も連想されやすいのはLSDである。実際、LSDはCIAが強い関心を持った物質であり、人間への投与を含む試験が行われたことも公文書で確認できる。
しかし、MKULTRAを「LSD実験の計画」とだけ説明すると、実態のかなりの部分が抜け落ちる。1977年の米上院公聴会で、回収された149のMKULTRAサブプロジェクトをCIAが分類した一覧には、薬物とアルコールだけでなく、催眠、睡眠、心理療法中の行動変化、動機づけ、亡命者研究、行動評価、訓練技法、ポリグラフ、電気ショック、秘密投与のための手品的技法などが含まれていた。1963年のCIA Inspector General報告をもとにした公式再構成では、心理学、精神医学、社会学、人類学、筆跡学、harassment substancesなども「追加の研究経路」として挙げられている。
一方で、ここには重大な読み違えの危険がある。
文書に研究テーマが書かれていること、研究費が出たこと、人間で試験されたこと、通常の生活環境で秘密試験されたこと、そして秘密工作で実際に使われたことは、すべて別のEvidence levelである。さらに、1950年代の文書には「こういう効果を持つ物質や方法を発見したい」という目標も列挙されているが、それはその能力をCIAが実現した証拠ではない。
この記事では、MKULTRAの研究対象を広く整理しながら、各項目について「何を研究したかったのか」「どこまで試験したと確認できるのか」「実用化を示す資料があるのか」を分けて読む。
先に結論――MKULTRAは「一つの方法」ではなく、複数の研究経路を束ねていた
公文書から確認できる範囲を先にまとめると、MKULTRAは次のような構造だった。
- LSDは重要な研究対象だったが、唯一の対象ではない。
- 1977年にCIAが回収資料を分類した15カテゴリーには、薬物・アルコール、催眠、薬物調達、秘密投与技法、睡眠と心理療法中の行動変化、動機づけ・行動評価、ポリグラフ、電気ショックなどが含まれる。
- 1963年のInspector General報告に基づく公式再構成では、radiation、electroshock、心理学、精神医学、社会学、人類学、graphology、harassment substances、paramilitary devices/materialsなどもMKULTRAのcharter下で検討された領域として挙げられている。
- 薬物研究の中だけでも、人間を使っていないとみられる研究、志願者への試験、志願者を含む可能性が高い研究、本人が知らない対象への試験が混在していた。
- CIA内部の公式再構成は、材料探索、志願者による研究室・施設内試験、通常の生活環境での試験という段階を区別している。
- さらに、研究・試験と「作戦使用」は別管理だった。1963年報告ではMKULTRAをR&D段階、MKDELTAを材料のoperational employmentを統制する仕組みとして区別している。
- 1955年のTSS/Chemical Division文書には、記憶喪失、催眠を容易にする物質、判断を乱す物質、身体を一時的に無力化する物質など多数の「望ましい効果」が並ぶ。しかし、これは開発目標のリストであり、全項目の成功や実用化を示すリストではない。
- 公式資料の中にも、薬物で「真実」を自動的に引き出せるという単純な考えや、抵抗する相手を催眠で自由に操作できるという考えに対する留保がある。
したがって、MKULTRAを「LSDで洗脳する一つの完成技術」と見るのは誤りである。より正確には、人間の認知、行動、生理状態、尋問への反応、記憶、判断、暗示への反応などに影響し得る方法を広く探索した研究開発の集合だった。
1977年の「15カテゴリー」が示す研究範囲
1977年8月3日の上院公聴会で、CIA長官Stansfield Turnerは、新たに回収された149のMKULTRAサブプロジェクトを、資料から読み取れる範囲で15のカテゴリーへ整理した。[2]
この分類は、MKULTRAの研究範囲を知るうえで有用である。ただし、カテゴリーの中には純粋な科学研究だけでなく、薬物の調達、外部研究への資金経路、情報収集、秘密投与の技法、目的不明の案件まで含まれる。つまり「15種類の人体実験」という意味ではない。
主要なカテゴリーは次の通りである。
| 公聴会での分類 | 回収資料が示す内容 | Evidence上の注意 |
|---|---|---|
| behavioral drugs / alcohol | 行動へ影響する薬物・アルコールの効果 | 人間試験なし、志願者、unwitting subjectsが混在 |
| hypnosis | 催眠研究。薬物との組み合わせも含む | 研究対象であることは明確だが、万能な強制催眠の実証ではない |
| chemical / drug acquisition | 化学物質や薬物の取得 | 調達は実験・実用化そのものではない |
| magician’s art | 秘密投与、注意をそらす技法、 covert communication等 | covert delivery能力の研究・訓練に近い |
| human behavior / sleep / psychotherapy | 人間行動、睡眠、心理療法中の行動変化 | 個別研究ごとに手法・対象者が異なる |
| motivational / defectors / assessment / training | 動機づけ、亡命者、行動評価、訓練技法 | 「行動変容」と「行動評価」を同一視しない |
| polygraph | ポリグラフ関連研究 | 測定・評価研究であり、直接的な行動操作とは別 |
| drugs / toxins / biologicals | 人体組織での研究やdelivery capability等 | MKULTRAの傘に広い案件が含まれたことを示す |
| electroshock等 | 電気ショック、harassment、ESP、spray/aerosol等の単独案件 | 1件の存在を計画全体の中心手法へ一般化しない |
この分類は、残ったファイルに何が含まれていたかを整理したものであり、成果一覧ではない。回収資料の中心は財務・管理記録で、各サブプロジェクトの最終成果が完全に残っていたわけでもない。「カテゴリーがある」ことから「能力が確立していた」ことまでは導けない。
LSDはなぜ象徴になったのか
LSDがMKULTRAの象徴になったのには理由がある。
第一に、CIA自身がLSDの行動への作用に強い関心を持ち、研究・試験を継続したことが多数の公文書で確認できる。第二に、人間を対象とした試験の中に志願者だけでなく、本人が薬物を投与されることを知らないunwitting subjectsが含まれていた。第三に、秘密投与の問題が後の議会調査で中心的な倫理問題として取り上げられた。
1977年にCIAが回収された149サブプロジェクトを分類した際、behavioral drugs and/or alcoholのカテゴリーだけでも、17件は人間試験を含まない可能性が高いもの、14件は明確にhuman volunteersを使ったもの、19件は志願者への試験を含む可能性が高いもの、6件はunwitting subjectsへの試験を含むものと整理された。[2]
ここで重要なのは、この数字が「LSDだけの件数」ではないことである。カテゴリーはbehavioral drugs and/or alcohol全体であり、複数の化学物質や研究目的を含む。LSDはその中で特に重要だったが、数字全体をLSD実験の件数へ置き換えることはできない。
また、人間試験の詳細、とくに本人の同意がない秘密投与がどのように行われたか、どのような監視体制だったか、Frank Olsonの死亡とどのように関係するかはCASE048-05で扱う。ここで必要なのは、薬物研究の内部にもEvidence levelの違う活動が混在していたという点である。
「真実の薬」を探していたのか――薬物研究の目的は一つではない
薬物研究を「自白剤を探す研究」とだけ理解するのも狭すぎる。
1955年5月5日付のTSS/Chemical Division文書には、研究開発の一部が発見しようとしている材料・方法として、多数の望ましい効果が列挙されている。そこには、判断を非論理的・衝動的にして公の場で信用を失わせるもの、知覚や思考の効率を変化させるもの、アルコールの作用を弱めたり強めたりするもの、催眠を導入しやすくするもの、尋問中のprivation・torture・coercionへの耐性を高めるもの、記憶喪失を生じさせるもの、一時的な身体障害を生じさせるもの、依存傾向を強めるよう人格構造へ影響するもの、質問時に作り話を維持しにくくするほど混乱させるものなどが含まれていた。
さらに、飲食物、たばこ、aerosolなどから秘密裏に投与できるknockout materialや、ごく少量で身体活動を困難にする物質も目標として記されている。
この文書は、MKULTRAの研究関心の広さを示す重要資料である。しかし、最も重要なのは「書かれていることを成功実績へ変換しない」ことである。
この一覧は「discoverする対象」、つまり研究開発上の要求仕様に近い。例えば「記憶喪失を起こす方法」と書かれているからといって、CIAが望む時間範囲だけ正確に記憶を消せる技術を完成させたことにはならない。「人格構造を変えて依存させる物質」という目標も、再現性の高い人格制御技術が完成した証拠ではない。
工学的に言えば、これは要求仕様と完成品の試験成績表を混同するようなものである。MKULTRAの公文書を読むとき、この区別は不可欠である。
催眠――「研究した」ことと「意思を奪えた」ことは違う
1977年の回収資料では、催眠に関するサブプロジェクトは8件、そのうち2件は催眠と薬物を組み合わせたものと整理されている。したがって、催眠がMKULTRAの研究対象だったこと自体には疑いがない。
しかし、「催眠を研究した」から「抵抗する人物を意のままに支配できた」へ進むことはできない。
1977年公聴会に収録されたCIAの「Truth Drugs in Interrogation」は、薬物と催眠の併用可能性を論じつつ、抵抗する対象を本人の意思に反してtranceへ導けるかについて専門家の見解が一致していないことを記している。そこでは、相手が気づかないまま催眠へ導く可能性も議論されるが、尋問状況では通常期待できないような被催眠者と術者の肯定的関係が必要になるとの留保も示されている。
「催眠の利用可能性を研究した」ことはdocumented research topicである。しかし「誰でも意思に反して催眠状態にし、命令通りに行動させられた」ことは、ここで確認した公式資料からはdocumented capabilityとは言えない。
睡眠・心理療法・行動研究――薬物以外の領域
1977年の分類では、「human behavior, sleep research, and behavioral changes during psychotherapy」に9サブプロジェクトが置かれている。
この分類は、MKULTRAが化学物質だけを扱った計画ではないことを示している。行動そのものを観察・評価する研究、睡眠に関する研究、心理療法の過程で起きる行動変化なども研究網の中に含まれていた。
さらに別カテゴリーとして、motivational studies、defectorsの研究、assessment、training techniquesに23サブプロジェクト、polygraph researchに3サブプロジェクトが整理されている。
ここでも、全部を「人格改造実験」と呼ぶのは不正確である。
assessmentは対象者の性格・信頼性・反応特性を理解する研究になり得るし、polygraphは生理反応を用いた評価技法の研究である。training techniquesも、必ずしも対象者の人格を変えるためのものではない。行動を「理解・測定する研究」と行動を「変える研究」を分けなければ、MKULTRAの範囲を必要以上にセンセーショナルに見せることになる。
一方で、睡眠や心理療法に関する研究が、特定施設ではより侵襲的な方法と結びついた例も存在する。ただし、その代表的なCase StudyであるEwen CameronとSubproject 68については、資金関係、治療・研究手法、患者への影響を個別資料で検証する必要があるためCASE048-06へ分離する。
電気ショック、心理学、精神医学――「追加の経路」としての研究
Church Committeeの公式再構成は、1963年Inspector General報告を引用し、MKULTRAの約10年間に「additional avenues to the control of human behavior」として多数の領域が調査対象になったと記している。[1]
そこに挙げられているのは、radiation、electroshock、psychology、psychiatry、sociology、anthropology、graphology、harassment substances、paramilitary devices and materialsなどである。
例えば1977年の149サブプロジェクト分類では、electroshockは「single subproject」として挙げられている。電気ショックが資料に登場することは確認できるが、それを「MKULTRA全体の主力手法だった」と表現するのは不正確である。周辺的・探索的な案件も含まれており、研究テーマをすべて同じ規模・成功度・実用性で並べることはできない。
秘密投与そのものが研究対象だった――「magician’s art」
MKULTRAの方法論で見落としやすいのが、物質そのものだけでなく、「どうやって相手に気づかれず使うか」も研究対象だったことである。
1977年の分類では、magicians’ artのうちcovert operationsに利用できる側面を扱ったサブプロジェクトが4件とされ、例としてdrug-related materialsのsurreptitious deliveryが挙げられている。
公聴会でCIA側は、この領域について、相手の注意をそらして物質を秘密に投与するdeceptive practiceや、手品師と助手が周囲に気づかれず情報を伝達する方法などを研究したものと説明した。
これは重要なポイントである。CIAの関心は「どの薬物が効くか」だけではなかった。秘密工作で使うことを想定するなら、対象に気づかれず物質を届ける方法、投与の痕跡を残しにくい方法、自然な状況へ組み込む方法まで考える必要がある。
ただし、ここでも「手品の研究があった」ことと「列挙されたすべての秘密投与手段が実戦で使用された」ことは別である。確認できるのは、covert deliveryが独立した研究関心としてサブプロジェクト化されていたことまでである。
研究には段階があった――材料探索、志願者試験、通常環境での試験
MKULTRAの研究を理解するうえで最も有用なのが、1963年Inspector General報告と、それを引用したChurch Committeeの「三つの段階」である。
公式再構成は、行動を変化させる材料のR&Dを概ね次の三段階に整理している。
第一段階は、研究対象となる材料の探索。 大学、製薬会社、病院、州・連邦機関、民間研究組織などの専門家との関係を通じて、研究価値のある材料や知見を探す。
第二段階は、施設内でのvoluntary human subjectsによる試験。 医師、毒性学者、その他の専門家が、病院や刑務所などで基礎研究から得られた物質や知見を人間へ適用して調べる。
第三段階は、normal life settingsでの試験。 1963年Inspector General報告は、MKULTRA materialsの最終的なtesting phaseとして、本人が試験対象と知らないunwitting subjectsへの適用を記している。
この三段階は、MKULTRAが「研究室で薬効を測るだけ」の計画ではなかったことを示す。一方で、この枠組みをすべての催眠研究、心理研究、電気ショック研究へ自動的に当てはめるべきではない。これは主としてmaterialsのR&Dとtestingを説明する構造であり、サブプロジェクトごとの具体的な段階は異なる。
また第三段階の具体的な秘密投与の運用は、倫理的にも史料的にも独立して検証すべき問題である。CASE048-05では、ここに焦点を絞る。
「研究」「試験」「作戦使用」を分ける
MKULTRAについて最も重要な分類は、研究テーマの種類より、Evidenceの段階かもしれない。
この記事では次の五段階に分ける。
| Evidence level | 意味 |
|---|---|
| documented objective | 「こういう能力・物質を探したい」と文書に書かれている |
| documented research topic | 研究テーマとして正式に扱われたことが確認できる |
| documented testing | 実験・試験が行われたことが資料で確認できる |
| documented human testing | 人間への試験が確認できる。志願者かunwittingかは別判定 |
| documented operational use | 実際の秘密工作・尋問等で使用されたことが確認できる |
例えば、1955年の17項目リストに「amnesiaを生じさせる材料や物理的方法」がある。これはdocumented objectiveである。そこから「CIAは任意の記憶だけを消せる完成技術を保有した」と結論することはできない。
一方、behavioral drugsの一部についてはhuman volunteersやunwitting subjectsへのtestingが公文書で確認されているため、Evidence levelはさらに上がる。
そしてoperational useは、研究・試験とはさらに別である。1963年Inspector General報告は、MKULTRAをresearch and development phase、MKDELTAをDD/Pによるoperational employmentの統制として区別している。Church Committeeの公式再構成は、MKULTRA/MKDELTAのmaterialsが海外で使用されたケースがあることを記す一方、記録廃棄のため作戦使用の全体を再構成できないとしている。
したがって、「研究されたから使われた」「試験されたから実用化された」という短絡はできない。
科学的に「効いた」のか――成功率を一括評価できない
MKULTRAの手法を列挙すると、次に「では、どれが実際に有効だったのか」という問いが出る。
単純な成功率は出せない。薬物、催眠、心理評価、睡眠研究、ポリグラフ、秘密投与技法では評価指標が異なり、1977年に回収された資料も主に財務・管理記録で、各研究の最終結果や再現性を体系的に比較できるデータセットではない。
さらに、人間への秘密試験の一部は科学的設計そのものに大きな問題があった。1977年上院公聴会では、unwitting drug testsについて、監視役が資格を持つ科学的観察者ではなく、対象者を最初の数時間以降追跡しにくく、体調を崩しても有効なfollow-upができない場合があったと指摘されている。
秘密性と「現実的な環境」を優先すれば、統制された科学実験としての質は下がり得る。これは、倫理上の問題だけでなく、得られたデータの解釈可能性にも関わる。
「truth drug」という言葉自体が危うい
MKULTRAの薬物研究を考える際、「truth serum」という言葉は非常に分かりやすい一方で誤解を生む。
1977年公聴会に収録されたCIAの資料「Truth Drugs in Interrogation」は、この表現自体がmisnomerであることを指摘している。薬物によって抑制が弱まり、話しやすくなることはあっても、発言が自動的に事実になるわけではない。薬物の影響下でも誤情報、幻想、作話、暗示への反応は起こり得る。
同資料は、LSDやmescalineのような幻覚作用を持つ物質についても、知覚や感覚入力の解釈を歪めるため、そこで得られる情報が非現実的・奇異になり、評価が困難になる可能性を述べている。
つまり、CIAが尋問へ利用できる薬物を研究したことと、「自白させれば必ず真実を話す薬」が完成したことは同じではない。
この区別は、MKULTRAを「成功したマインドコントロール計画」と評価する際の重要な反証材料になる。
研究領域は四層に分けて読む
公文書上の手法は、①LSDなどの化学・生物学的材料、②催眠・睡眠・心理学・精神医学など心理/行動研究、③ポリグラフやassessmentなど測定・評価、④秘密投与やsprays/aerosolsなど秘密工作へ接続する技術、の四層に分けて読むと混同が少ない。対象を「変える」研究と、対象を「理解・測定する」研究は同じではない。
FACT CHECK――研究範囲について固定できること
1.MKULTRAはLSDだけを研究していたのか。 違う。1977年公聴会の149サブプロジェクト分類には催眠、睡眠、心理療法中の行動変化、動機づけ、評価、ポリグラフ、電気ショック、秘密投与技法など多数の領域がある。
2.LSDは重要ではなかったのか。 重要だった。人間への試験、秘密投与、作戦利用可能性の検討などが公式記録に残り、MKULTRAを象徴する研究対象の一つである。
3.催眠を研究していたのか。 確認できる。1977年の分類では8サブプロジェクト、そのうち2件は薬物との組み合わせを含む。
4.睡眠や心理療法も研究範囲だったのか。 確認できる。human behavior、sleep research、psychotherapy中のbehavioral changesとして9サブプロジェクトが分類されている。
5.電気ショックはMKULTRAの中心手法だったのか。 「中心」とまでは言えない。公文書に研究対象として現れ、1977年分類ではeffects of electroshockのsingle subprojectが示されている。
6.記憶喪失や人格依存を起こす方法をCIAは完成させたのか。 そのようには言えない。1955年文書では研究開発の目標として挙げられるが、目標の記載は完成能力の証拠ではない。
7.人間への試験はすべて本人同意の上だったのか。 違う。志願者による試験と、本人が知らないunwitting subjectsへの試験の双方が公式資料で確認されている。
8.研究された方法はすべて作戦で使われたのか。 確認できない。MKULTRAのR&DとMKDELTAによるoperational employmentは区別され、記録欠落のため作戦使用の全体像は復元できない。
9.「truth drug」で確実に真実を引き出せたのか。 公式資料はそのような単純な能力を支持していない。薬物下の発言は必ずしも事実ではなく、情報の信頼性評価は難しいとされている。
LSDだけを見ると、MKULTRAの本質を見失う
MKULTRAの研究範囲は広かった。
薬物。催眠。睡眠。心理療法。心理学と精神医学。行動評価。ポリグラフ。電気ショック。秘密投与の技法。対象を混乱・無力化・信用失墜させる可能性のある材料。さらには、一見すると行動変容との関係が薄い探索的・周辺的研究まで同じumbrellaの下に入っていた。
しかし、その広さをそのまま「CIAがそれらすべてを実用化した」と読み替えてはいけない。
公文書が示しているのは、CIAが多数の可能性を研究対象として設定し、サブプロジェクトへ資金を出し、分野によっては人間で試験し、一部のmaterialsについては通常の生活環境や秘密工作への接続を試みたということである。そこにはdocumented objective、research、testing、human testing、operational useという複数の段階があり、資料の厚さも成功度も異なる。
MKULTRAを正確に理解するには、「何を考えたか」と「何をしたか」と「何が実際に機能したか」を分けなければならない。
次の記事では、その中でも最も明確に倫理的境界を越えた領域へ進む。本人が薬物を投与されることを知らないunwitting testingは、どのような理由で正当化され、どのように運用されたのか。そして1953年のFrank Olson死亡について、公文書は何を確認しているのか。CASE048-05では、秘密投与に範囲を絞って追う。
FACT CHECK|出典・参考資料
- [1] CIA Inspector General, Report of Inspection of MKULTRA , July 26, 1963
- [2] U.S. Senate Select Committee on Intelligence / Subcommittee on Health and Scientific Research, Project MKULTRA, the CIA’s Program of Research in Behavioral Modification , Joint Hearing, August 3, 1977
- [3] U.S. Senate Select Committee to Study Governmental Operations with Respect to Intelligence Activities, Testing and Use of Chemical and Biological Agents by the Intelligence Community , 1976; reproduced as Appendix A in the 1977 MKULTRA hearing record
- [4] CIA / TSS Chemical Division, A Portion of the Research and Development Program… is Devoted to the Discovery of the Following Materials and Methods , May 5, 1955; reproduced in Appendix C of the 1977 Senate MKULTRA hearing record
- [5] CIA, Truth Drugs in Interrogation , reproduced as material submitted for the record in the 1977 Senate MKULTRA hearing
MKULTRA計画|CIAはなぜ秘密の人体実験を進めたのか 第4回 全8回 全8回を見る
- 01 MKULTRA計画とは何だったのか?|公文書で確認できる事実と記録の限界
- 02 MKULTRA計画|なぜCIAはMKULTRAを始めたのか?|BLUEBIRD・ARTICHOKEから1953年承認まで
- 03 MKULTRA計画|MKULTRAはどう運営されたのか?|149サブプロジェクトと資金・研究機関のネットワーク
- 04 MKULTRA計画|MKULTRAは何を試していたのか?|LSDだけではない行動変容研究の範囲
- 05 MKULTRA計画|知らない被験者にLSDはどう投与されたのか?|秘密投与とフランク・オルソン事件
- 06 MKULTRA Subproject 68|Ewen Cameronとモントリオール実験
- 07 MKULTRA計画|なぜMKULTRAの全貌は復元できないのか?|1973年の記録廃棄と1977年公聴会
- 08 MKULTRA計画|MKULTRAについて何が事実で、何が未確認なのか?|公文書・証言・陰謀論の境界