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アポロ13号はどう地球へ戻ったのか月を回る自由帰還軌道とエンジン噴射

アポロ13号はどう地球へ戻ったのか|月を回る自由帰還軌道とエンジン噴射

宇宙事故

酸素は確保した。

電力と水の消費も落とした。

二酸化炭素を除去する方法もできた。

しかし、それだけではApollo 13は地球へ帰れない。

事故が起きた1970年4月13日、宇宙船はすでに約32万km離れた月へ向かっていた。

しかも、その軌道は「何もしなくても月を回って地球へ戻れる軌道」から意図的に外されていた。

本来の目的だったフラ・マウロへの月面着陸を実現するためである。

サービスモジュールの主エンジンは、事故後の損傷状態が分からず使用できない。

そこでNASAが使ったのは、月着陸船AquariusのDescent Propulsion System――月面へ降りるためのエンジンだった。

事故から約5時間半後、34秒。

月を回った約2時間後、約4分24秒。

さらに地球へ向かう途中でも小さな軌道修正を加える。

Apollo 13の生還は、「月の重力に任せて戻った」のではない。

月の重力と残されたエンジンを組み合わせ、帰還可能な軌道を段階的に作り直した結果だった。


CASE FILE 14

アポロ13号特集|全10回

  1. 第1回 アポロ13号とは?|月面着陸から「生還ミッション」へ変わった6日間
  2. 第2回 アポロ13号は何をするはずだったのか|3人の乗員とフラ・マウロ月面着陸計画
  3. 第3回 「Houston, we’ve had a problem」|アポロ13号で酸素タンクが爆発した夜
  4. 第4回 なぜアポロ13号の酸素タンクは爆発したのか|地上試験から事故までを追う
  5. 第5回 月着陸船Aquariusはどう「救命艇」になったのか|壊れたOdysseyからの脱出
  6. 第6回 電力・水・CO2をどう切り詰めたのか|アポロ13号を生かした即席の生命維持策
  7. 第7回 アポロ13号はどう地球へ戻ったのか|月を回る自由帰還軌道とエンジン噴射【現在の記事】
  8. 第8回 停止していたOdysseyを再起動せよ|アポロ13号、再突入から太平洋着水まで
  9. 第9回 アポロ13号事故は何を変えたのか|事故調査委員会の結論と酸素タンク再設計
  10. 第10回 映画『アポロ13』はどこまで実話なのか|人物・台詞・Mission Controlを史実と比較

そもそも「自由帰還軌道」とは何か

Apollo 13は地球を出発した直後、free-return trajectory――自由帰還軌道と呼ばれる軌道へ投入されていた。

この軌道では、宇宙船が月へ接近したあと月の重力によって進行方向を曲げられ、月の裏側を回って再び地球方向へ戻る。

重要なのは、月周回軌道へ入るための主エンジン噴射ができなくても、基本的には地球へ戻る方向へ向かうことである。

簡略化すると、次のような軌道になる。

地球
  \
   \
    \
     →→→ 月
          ↘
           ↘ 月の裏側を回る
          ↙
       ←←
     /
   地球

「月の重力を使ったUターン」と考えると理解しやすい。

エンジンが完全に使えなくなった場合でも地球へ戻れるため、有人月飛行では重要な安全策だった。

ところがApollo 13は、事故前に自由帰還軌道から外れていた

Apollo 13も打ち上げ直後は自由帰還軌道を飛んでいた。

しかし、事故が発生した時点では違った。

飛行開始から約30時間41分。

サービスモジュールのService Propulsion System、SPS主エンジンを約3.5秒噴射し、速度を約23.2ft/s変化させている。

これは異常への対応ではない。

予定どおりの軌道変更だった。

目的はフラ・マウロへの月面着陸である。

自由帰還軌道のままでは月への接近条件に制約があり、予定していた着陸軌道へ移るためには別の軌道へ変更する必要があった。

NASAはこれをハイブリッド軌道、あるいはnon-free-return trajectoryとして扱っている。

通常なら、この後SPSエンジンを使って月周回軌道へ入る。

しかし55時間台で酸素タンク事故が起きた。

月面着陸は中止。

サービスモジュールは損傷。

そしてApollo 13は、何もしなければ安全に地球へ戻れない軌道上にいた。

なぜサービスモジュールの主エンジンを使わなかったのか

ApolloのCommand and Service Moduleには、Service Propulsion Systemと呼ばれる大型エンジンがある。

本来なら月周回軌道への投入、月周回軌道からの離脱など、主要な速度変更を担当するエンジンだった。

帰還だけを考えれば、このSPSを使う案も考えられる。

しかし事故後、Mission Controlにはサービスモジュール内部の損傷範囲が分からなかった。

酸素タンク2番は破損している。

外板にも大きな損傷がある可能性がある。

推進剤タンクや配管、エンジンそのものに問題がないと保証できない。

損傷したSPSを作動させ、さらに重大な破壊が起きれば、別の帰還手段まで失う。

そこでMission Controlは、使用実績のある別系統へ切り替えた。

AquariusのDescent Propulsion System、DPSである。

月面着陸用エンジンで、3機つながった宇宙船を動かす

DPSは、本来Aquariusの降下段を月面へ降ろすためのエンジンである。

事故後のApollo 13では、

  • Command Module Odyssey
  • 損傷したService Module
  • Lunar Module Aquarius

がドッキングした状態にある。

その全体を、最後尾ではなく月着陸船側のDPSで押す。

通常のApollo月飛行とは異なる構成だった。

ただし、この方法そのものが完全な思いつきだったわけではない。

NASAではService Propulsion Systemが使用できなくなった場合に、Lunar ModuleのDescent Propulsion Systemを使ってドッキング状態の宇宙船を動かす緊急手順が検討されており、Apollo 9でも関連する運用が試験されていた。

問題は、Apollo 13の現在位置と損傷状態に合わせて、具体的な噴射時刻・姿勢・速度変化を計算することだった。

61:29:43|最初の34秒で自由帰還軌道へ戻した

事故発生から約5時間35分。

飛行時間61時間29分43秒

AquariusのDPSが点火された。

燃焼時間は約34.2秒。

速度変化は約37.8ft/s、約11.5m/sだった。

大きな速度変化ではない。

しかし宇宙空間では、この小さな速度差が何十万km先の位置を大きく変える。

NASA Mission Reportでは、この噴射によってApollo 13は再びfree-return trajectoryへ戻ったと記録されている。

項目 内容
時刻 61:29:43 GET
使用エンジン Aquarius Descent Propulsion System
燃焼時間 約34.2秒
速度変化 約37.8ft/s(約11.5m/s)
目的 自由帰還軌道へ復帰

これによって、最悪でも「月を通過したあと地球付近へ戻れる」という最低限の安全策が確保された。

では、この34秒だけで帰還できたのか

理論上は、地球へ戻ることはできた。

ただし、それは最適な帰還ではなかった。

NASAのMission Reportによれば、この自由帰還軌道のまま進むと、Command Moduleは飛行時間約152時間でモーリシャス島南方のインド洋へ着水する計算だった。

事故後の限られた電力と水でそこまで持つかという問題がある。

さらにApollo 13の主回収艦USS Iwo Jimaは南太平洋側に配置されていた。

NASAが欲しかったのは、

「地球へ戻れる軌道」

ではない。

「できるだけ早く、回収可能な南太平洋へ戻れる軌道」

だった。

そのため、月の裏側を回った後にさらに大きな噴射を行う計画が立てられた。

なぜ、すぐに大きな噴射をしなかったのか

事故直後にDPSを長時間噴射して、直接地球へ向きを変える案も検討された。

しかし大きな速度変更には推進剤を大量に使う。

さらに損傷したCommand and Service Moduleを月着陸船で押すという運用には、不確定要素もあった。

そこでNASAは、月そのものを利用した。

Apollo 13を月へ向かわせたままにし、月の重力で宇宙船の進行方向を地球側へ曲げる。

その後、効率のよい地点でDPSを噴射して帰還時間を短縮する。

いわゆるlunar slingshot、月を使った重力アシストである。

言い換えれば、

エンジンで180度Uターンするのではなく、月の重力に大部分の方向転換をさせた。

月の裏側へ入る――地球との通信が途絶えた

Apollo 13は月へ接近した。

月の裏側へ回ると、宇宙船と地球の間に月そのものが入る。

電波は月を通過できない。

そのためMission Controlとの通信は一時的に途絶える。

これは事故による通信障害ではなく、月飛行では通常起こる現象である。

しかしApollo 13では意味が違った。

地球側から状況を監視できない時間帯に、損傷した宇宙船が月を回る。

Mission Controlにできるのは、通信が回復するのを待つことだけだった。

Apollo 13は、人類史上最も地球から遠い地点へ到達した

事故によってフラ・マウロ着陸は中止されたが、Apollo 13は月の裏側を通常の着陸ミッションより高い高度で通過した。

その結果、地球からの距離は約248,655マイル、約400,000kmに達した。

この距離は長く、有人宇宙飛行で人間が地球から到達した最遠記録として残った。

皮肉にも、月面へ降りられなかったApollo 13が、結果として人類を地球から最も遠い場所まで運んだのである。

月を回ったあと、「そのまま帰る」選択肢は捨てられた

月の重力によってApollo 13の進路は地球方向へ曲がった。

これで最低限の自由帰還軌道は成立している。

しかしMission Controlは、さらにDPSを使う。

計画されたのがPC+2 maneuverだった。

PCはPericynthion、月への最接近点。

「+2」は、その約2時間後という意味である。

月を回って地球方向へ向き始めたあとに加速することで、帰還時間を短縮する。

PC+2の前に、別の問題があった――自分たちは正しい方向を向いているのか

エンジンは、正しい方向へ向けて噴射しなければならない。

数度ずれただけでも、何十万km先では大きな位置ずれになる。

通常、Lunar Moduleでは星を観測して誘導装置の基準を確認できる。

ところがApollo 13では、それが難しかった。

酸素タンク事故によって放出された多数の破片が、宇宙船の周囲を漂っていた。

太陽光を反射する破片は、窓や光学装置から見ると星のように光る。

本物の星を識別するのが難しい。

そこでNASAは別の基準を利用した。

太陽である。

太陽を使って誘導装置を確認した

飛行時間約74時間。

PC+2噴射へ備えて、Aquariusの誘導プラットフォームの精度を確認した。

コンピューターに太陽の方向を計算させ、Alignment Optical Telescopeで実際の太陽位置を確認する。

NASA Mission Reportによれば、確認されたずれは許容値1度に対して約半分程度だった。

再アラインメントを行う必要はないと判断された。

宇宙船が計算された姿勢を正しく認識していることが確認できた。

PC+2噴射を実行できる。

79:27:39|約4分24秒のPC+2噴射

飛行時間79時間27分39秒

AquariusのDPSが再び点火された。

今度は34秒ではない。

263.8秒――約4分24秒にわたる長時間噴射だった。

速度変化は約860.5ft/s。

約262m/sに相当する。

最初の自由帰還復帰噴射の約23倍の速度変化である。

自由帰還復帰 PC+2
時刻 61:29:43 79:27:39
燃焼時間 約34秒 約264秒
速度変化 約37.8ft/s 約860.5ft/s
目的 自由帰還軌道へ戻す 帰還短縮・南太平洋へ着水地点変更

この噴射によって、予定帰還時刻は約152時間から142時間台へ短縮された。

約9時間の短縮である。

同時に着水予定地点もインド洋から南太平洋へ移された。

そこにはUSS Iwo Jimaを中心とする回収部隊が待機できる。

PC+2は「地球へ戻るため」だけの噴射ではなかった

ここは整理しておきたい。

61時間29分の噴射で、Apollo 13はすでに自由帰還軌道へ戻っている。

したがってPC+2をしなければ絶対に地球へ戻れなかった、という意味ではない。

PC+2の主な役割は、

  • 地球への帰還時間を短縮する
  • 限られた電力・水の消費時間を短くする
  • 着水地点をインド洋から南太平洋へ移す

ことだった。

この意味でPC+2は、軌道問題と第6回で扱った消耗品問題をつなぐ操作だった。

9時間早く帰ることは、そのまま9時間分の生命維持資源を節約することにもなる。

エンジン噴射後、宇宙船をゆっくり回転させた

PC+2噴射後、Apollo 13は地球へ向かう長い航行へ入った。

そこで必要になったのがPassive Thermal Controlだった。

宇宙空間では太陽が当たり続ける側は熱くなり、反対側は冷える。

宇宙船の一面だけを太陽へ向け続けると、温度差が大きくなる。

そこで機体全体をゆっくり回転させ、太陽光を均等に当てる。

俗に「barbecue roll」と呼ばれる運用である。

ただしApollo 13は通常のCommand and Service Moduleだけではない。

Odyssey、Service Module、Aquariusが接続された長い構成で、しかも重心条件も通常と異なる。

Mission Reportでは、この状態で安定した回転を作るのが難しく、姿勢制御に工夫が必要だったことが記録されている。

地球へ向かえば、あとは放置できるのか

できない。

PC+2噴射後も、地球へ近づくにつれて軌道誤差を修正する必要があった。

地球大気への再突入は、単に地球へ衝突すればよいわけではない。

極めて狭い角度で大気へ入らなければならない。

角度が浅すぎれば、大気上層をかすめて再び宇宙側へ飛び出す可能性がある。

急すぎれば、減速度や熱負荷が大きくなる。

そこでNASAは追跡データからApollo 13の軌道を再計算し、小さな修正噴射を加えた。

105:18:28|わずか約14秒の軌道修正

飛行時間105時間18分28秒

AquariusのDPSが3回目に使用された。

燃焼時間は約14秒。

速度変化はわずか約7.8ft/s、約2.4m/s。

しかし目的は速度そのものではない。

地球大気へ入るflight-path angle――飛行経路角を修正することだった。

Mission Reportでは、この噴射によって再突入角は約-6.52度へ修正されたと記録されている。

月を回るための大きな軌道設計から、最後は数m/s単位の精密調整へ。

帰還が近づくほど、許される誤差は小さくなっていった。

最後の軌道修正はDPSではなく小型スラスターだった

さらに飛行時間137時間39分52秒ごろ。

再突入を前に最後の小さな軌道修正が行われた。

ここではDPSではなく、AquariusのReaction Control System――姿勢制御用小型スラスターが使用された。

燃焼時間は約21.5秒。

速度変化は約3ft/s、約0.9m/s。

非常に小さい。

しかし、その修正後に予測された再突入角は約-6.49度。

目標に極めて近い値となった。

Apollo 13の帰還軌道を4段階で見る

段階 時刻 GET 推進系 役割
事故前 30:40:50 Service Module SPS 月面着陸用のnon-free-return軌道へ変更
61:29:43 LM DPS 自由帰還軌道へ復帰
79:27:39 LM DPS PC+2。帰還時間短縮・南太平洋へ変更
105:18:28 LM DPS 再突入角を修正
137:39:52 LM RCS 再突入前の最終微修正

こうして見ると、Apollo 13は一度の「大逆転噴射」で帰還したわけではない。

まず生存可能な軌道へ戻す。

次に帰還時間と着水地点を改善する。

その後、再突入角を細かく修正する。

問題を段階に分解し、その時点で必要な精度だけを確保していった。

なぜ軌道計算はMission Control側で行えたのか

Apollo 13の乗員が、自分たちだけで月と地球の位置から噴射時間を計算したわけではない。

地上の追跡局は宇宙船との通信信号などから位置と速度を測定し、Mission Controlへデータを送る。

地上側の計算機で将来の軌道を予測し、

  • 何時に
  • どちらを向き
  • どのエンジンを
  • 何秒間

使えばよいかを計算する。

その数値を乗員へ送り、Aquariusの誘導コンピューターへ入力する。

実際の噴射結果は再び地上から追跡し、必要なら次の修正を計算する。

制御系で言えば、一度値を決めて終わるopen-loopではない。

追跡 → 予測 → 噴射 → 再計測 → 再修正

を繰り返す閉ループに近い運用だった。

しかもNASAは通信・追跡電力まで節約していた

Aquariusの電力を守るため、通信設備も常時フルパワーで運用していたわけではない。

Mission Reportでは、宇宙船側の電力増幅器を多くの時間で停止していたため、通常より少ない測距データで航法を続けたことが記録されている。

それでも地上追跡データをまとめて処理することで、Apollo 12とほぼ同等の航法精度を維持できたという。

ここでも、

「最大性能で常時監視する」

のではなく、

「最低限の電力で必要な精度を確保する」

という事故後の運用思想が現れている。

FACT CHECK|Apollo 13は何もしなくても月を回って帰れた?

事故発生時点では違う。

Apollo 13は打ち上げ直後には自由帰還軌道だったが、飛行時間30時間40分ごろの予定された軌道修正でnon-free-return軌道へ移っていた。

そのため事故後、61時間29分のDPS噴射で自由帰還軌道へ戻す必要があった。

FACT CHECK|月の重力だけで帰った?

月の重力は重要だったが、それだけではない。

月の重力によって宇宙船の方向を地球側へ曲げるcircumlunar trajectoryを利用した。

ただし、事故後には自由帰還軌道へ復帰するDPS噴射、PC+2噴射、さらに2回の細かな軌道修正を行っている。

FACT CHECK|PC+2が自由帰還軌道へ戻す噴射だった?

違う。

自由帰還軌道への復帰は、61時間29分の約34秒噴射で行われた。

PC+2は月最接近後約2時間で実施され、主に帰還時間を約9時間短縮し、着水地点をインド洋から南太平洋へ変更するための噴射だった。

FACT CHECK|サービスモジュールの主エンジンは壊れていた?

事故後にSPSそのものが完全に故障していたことが飛行中に確認されたわけではない。

問題は、酸素タンク事故によるサービスモジュール全体の損傷範囲が不明だったことだった。

そのためNASAはSPSへ依存することを避け、AquariusのDPSを主要な帰還用推進系として使用した。

FACT CHECK|再突入角はなぜ重要なのか

地球へ近づくだけでは帰還成功にならない。

Command Moduleは秒速約11kmという高速で大気圏へ入る。

浅すぎる軌道では十分に減速できず、深すぎる軌道では熱・減速度が過大になる。

そのため最後の軌道修正では、速度を大きく変えることではなく、再突入時の飛行経路角を適切な範囲へ入れることが重要だった。

まとめ|Apollo 13は「地球へ向ければ帰れる」状況ではなかった

Apollo 13は打ち上げ時には自由帰還軌道へ投入された。

しかしフラ・マウロ着陸のため、事故前の30時間40分ごろにはnon-free-return軌道へ変更されていた。

55時間台で酸素タンク事故が発生した時点では、月面着陸をやめるだけでは地球へ安全に戻れなかった。

そこで事故から約5時間半後、Aquariusの降下用エンジンを34.2秒噴射。

Apollo 13を自由帰還軌道へ戻した。

しかし、そのままでは約152時間でインド洋へ着水する。

消耗品にも余裕がない。

月の裏側を回ったあと、79時間27分にPC+2噴射を実施。

約4分24秒の燃焼で速度を約262m/s変化させ、帰還を約9時間短縮し、着水地点を南太平洋へ移した。

さらに105時間18分には約14秒のDPS噴射。

137時間39分にはAquariusの小型スラスターによる最終修正。

こうして大気圏へ入る角度を整えた。

Apollo 13の帰還は、一つの大胆な操作ではない。

「まず帰れる状態へ戻す」「次に早く帰す」「最後に正確に地球へ入れる」という段階的な軌道設計だった。

しかし、軌道が正しくても最後の問題が残る。

地球大気へ再突入できるのはAquariusではない。

事故直後から約3日半、ほぼ電源を落としていたCommand Module Odysseyを再び起動しなければならない。

しかもサービスモジュールを切り離して初めて、乗員は事故で機体がどれほど壊れていたのかを見ることになる。



CASE FILE 14|アポロ13号特集 全10回

  1. 第1回 アポロ13号とは?|月面着陸から「生還ミッション」へ変わった6日間
  2. 第2回 アポロ13号は何をするはずだったのか|3人の乗員とフラ・マウロ月面着陸計画
  3. 第3回 「Houston, we’ve had a problem」|アポロ13号で酸素タンクが爆発した夜
  4. 第4回 なぜアポロ13号の酸素タンクは爆発したのか|地上試験から事故までを追う
  5. 第5回 月着陸船Aquariusはどう「救命艇」になったのか|壊れたOdysseyからの脱出
  6. 第6回 電力・水・CO2をどう切り詰めたのか|アポロ13号を生かした即席の生命維持策
  7. 第7回 アポロ13号はどう地球へ戻ったのか|月を回る自由帰還軌道とエンジン噴射【現在の記事】
  8. 第8回 停止していたOdysseyを再起動せよ|アポロ13号、再突入から太平洋着水まで
  9. 第9回 アポロ13号事故は何を変えたのか|事故調査委員会の結論と酸素タンク再設計
  10. 第10回 映画『アポロ13』はどこまで実話なのか|人物・台詞・Mission Controlを史実と比較

出典・参考資料

  • NASA「Apollo 13 Mission Report」
    自由帰還軌道、事故前のnon-free-return軌道、61:29:43のDPS噴射、79:27:39のPC+2噴射、105:18:28・137:39:52の追加軌道修正、再突入角の確認に使用。
  • “`

  • NASA「Houston, We’ve Had a Problem」
    事故時に自由帰還軌道から外れていた理由、AquariusのDPSを使用する判断、月周回、PC+2、着水地点変更の確認に使用。
  • NASA「Apollo 13: Mission Details」
    自由帰還軌道への復帰、DPSによる帰還、太陽を使ったLM誘導プラットフォーム確認、帰還計画全体の整理に使用。
  • NASA Mission Operations Report Apollo 13
    帰還方法のリアルタイム検討、DPS・LM誘導系・消耗品を組み合わせたabort profileの確認に使用。
  • NASA「Apollo 13 Mission Challenged Crew, Launch Team」
    月を利用した自由帰還と、帰還のための推進操作・消耗品管理が主要課題だったことの確認に使用。
  • “`

資料について

本記事では、「自由帰還軌道へ戻す噴射」と「PC+2噴射」を区別しています。61時間29分43秒のDPS噴射が自由帰還軌道への復帰、79時間27分39秒のPC+2噴射が主として帰還時間短縮と南太平洋への着水地点変更を目的とした操作です。

速度変化、燃焼時間、軌道修正時刻はApollo 13 Mission ReportのManeuver Summaryを基準としています。Mission Reportでは自由帰還復帰噴射を37.8ft/s・34.2秒、PC+2を860.5ft/s・263.8秒と記録しています。

また、サービスモジュールのSPSについては「事故によってエンジン自体が破壊された」とは断定していません。飛行中にはService Moduleの損傷範囲を確認できず、安全性を保証できなかったため、帰還計画ではLunar ModuleのDPSを使用しました。