薄暗い監房。
壁の奥を少しずつ削る囚人。
ベッドには偽の頭。
監房裏の通路を登り、屋根へ抜け、手製の筏を抱えてサンフランシスコ湾へ消えていく3人。
1979年公開の映画『アルカトラズからの脱出(Escape from Alcatraz)』は、1962年6月に実際に起きたアルカトラズ脱獄事件を描いた作品です。
監督はドン・シーゲル。
フランク・モリスを演じたのはクリント・イーストウッドです。
映画を見ると、
「実際の脱獄も、ほぼこのままだったのではないか」
と思えるほど具体的に描かれています。
それには理由があります。
映画は事件を題材にしただけでなく、実際のアルカトラズ島で大規模なロケ撮影を行いました。
さらに脚本家リチャード・タグルは、J・キャンベル・ブルースによる1963年のノンフィクション『Escape from Alcatraz』を原作とし、公開され始めていたFBI資料も調査して脚本を書いています。
そのため、
- 監房後部の穴
- 設備通路
- ダミーヘッド
- レインコート製の筏
- 屋根への脱出
- 4人目だけが取り残される
という事件の核心部分は、実際の記録とかなりよく一致します。
しかし、映画はドキュメンタリーではありません。
人物関係、刑務所長との対立、暴力事件、脱獄を決意する過程、4人目が残った理由、そしてラストシーンには、明確な脚色があります。
この記事では、
映画のどこまでが実話で、どこからが映画として作られた物語なのか
を、FBI、Federal Bureau of Prisons、National Park Service、American Film Instituteの記録と比較します。
※この記事は映画『アルカトラズからの脱出』の結末まで扱います。
この記事で分かること
- 映画『アルカトラズからの脱出』の基本情報
- 映画がどの資料をもとに制作されたのか
- 実際のアルカトラズ島で撮影されたのか
- フランク・モリスとアングリン兄弟は実在人物なのか
- チャーリー・バッツのモデルは誰なのか
- 映画の刑務所長は実在人物そのものなのか
- ドク、イングリッシュ、リトマス、ウルフは実在したのか
- 壁を削る方法は史実と同じなのか
- ダミーヘッドは本当に使われたのか
- レインコート製の筏は本当に作られたのか
- 4人目が残った理由は映画と史実でどう違うのか
- ラストの菊の花は実際の物証なのか
- 映画のエンドロールとアルカトラズ閉鎖の関係
CASE FILE 12|アルカトラズ脱獄事件特集(全10回)
この特集では、アルカトラズ連邦刑務所の構造、4人の計画者、数か月に及んだ工作、1962年6月11日夜の脱出、FBIによる捜索、湾内で発見された物証、生存可能性、生存説、映画と史実、現在まで続く逃亡者捜索を10本の記事で追います。
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第1回 アルカトラズ脱獄事件とは?|1962年、消えた3人と未解決の脱獄を追う
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第2回 なぜアルカトラズから逃げられたのか|監房・通路・島を囲む海の構造
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第3回 フランク・モリスとアングリン兄弟は誰だったのか|4人目アレン・ウェストと脱獄計画
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第4回 スプーン、偽の頭、50着超のレインコート|脱獄道具と秘密の作業場
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第5回 1962年6月11日夜、3人はどう脱獄したのか|監房から北東岸までのルート
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第6回 FBIは何を見つけたのか|パドル、救命胴衣、漂流物と大捜索
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第7回 3人はサンフランシスコ湾を渡れたのか|潮流・水温・筏と生存可能性
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第8回 アルカトラズ脱獄の生存説はどこまで確かか|手紙・写真・家族証言を検証
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第9回 映画『アルカトラズからの脱出』はどこまで実話なのか|1962年脱獄との違いを検証【現在の記事】
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第10回 アルカトラズ脱獄事件のその後|FBI捜査終了と現在も続く3人の手配
今回は映画を史実資料として扱うのではなく、実際の1962年事件と一つずつ照合します。
映画『アルカトラズからの脱出』とは
| 原題 | Escape from Alcatraz |
|---|---|
| 公開 | 1979年 |
| 監督 | ドン・シーゲル |
| 脚本 | リチャード・タグル |
| 原作 | J・キャンベル・ブルース『Escape from Alcatraz』(1963年) |
| フランク・モリス | クリント・イーストウッド |
| ジョン・アングリン | フレッド・ウォード |
| クラレンス・アングリン | ジャック・チボー |
| チャーリー・バッツ | ラリー・ハンキン |
| 刑務所長 | パトリック・マクグーハン |
American Film Instituteによれば、映画は1979年6月22日にロサンゼルスとニューヨークで公開されました。
監督ドン・シーゲルとクリント・イーストウッドにとっては、5本目にして最後の共同作品でもあります。
原作は事件翌年に出版されたノンフィクション
映画の原作になったのは、J・キャンベル・ブルースが1963年に出版したノンフィクション『Escape from Alcatraz』です。
脚本を書いたリチャード・タグルは1970年代半ばに観光客としてアルカトラズを訪れ、1962年の脱獄事件へ関心を持ったとAFIは記録しています。
その後ブルースへ連絡し、映画化を進めました。
さらにタグルは脚本執筆時、公開され始めていたFBI資料へアクセスして事件を調査しています。
つまり映画は、
「実話を名前だけ借りて完全に作り直した作品」ではありません。
事件記録をかなり具体的に調査して制作されています。
そして、撮影場所そのものが本物のアルカトラズだった
映画を見たときに特に強く感じるのが、刑務所内部の質感です。
これはセットだけで作られたものではありません。
主要撮影は実際のアルカトラズ島で行われました。
AFIによると、撮影開始は1978年10月16日。
アルカトラズ島で約7週間撮影した後、ハリウッドのParamount Studiosで追加撮影が行われています。
撮影のため、刑務所を1960年代の姿へ戻した
撮影時のアルカトラズは、1963年の刑務所閉鎖から15年ほど経過していました。
建物は劣化し、電気設備も失われ、1960年代そのままの状態ではありませんでした。
映画制作側は撮影前の約2か月を使って、
- 電気配線
- 刑務所内部
- 1960年代初頭の外観
などを復元しました。
AFIは、この作業に約50万ドルが使われたとしています。
映画撮影がアルカトラズ保存にも利用された
National Park Serviceの歴史資料には、さらに興味深い記録があります。
1970年代のアルカトラズでは、保存工事へ十分な予算を確保できていませんでした。
そこで1978年、NPSは『アルカトラズからの脱出』の島内撮影を認めました。
映画制作に伴う復旧作業を、建物保存にもつなげるためです。
つまり、
映画が本物のアルカトラズを使っただけではなく、映画制作がアルカトラズの保存にも一定の役割を果たした
ことになります。
映画が「本物らしく見える」のは当然だった
このため、映画の中で、
- 監房
- ブロードウェイと呼ばれた中央通路
- 食堂
- Dブロック
- 作業場
- 刑務所外周
- 島の海岸
などを見る際には、一般的なスタジオセットとは違う価値があります。
実際の史跡を1960年代初頭の状態へ近づけたうえで撮影しているからです。
ただし、
映画に映った配置=1962年6月11日の状態を完全に記録した映像
ではありません。
映画撮影のための復元・演出も加わっています。
結論から言うと「脱獄部分」はかなり史実に近い
映画と1962年の事件を大きく分けると、
| 要素 | 映画 | 史実との関係 |
|---|---|---|
| フランク・モリス | 実名 | 実在人物 |
| ジョン・アングリン | 実名 | 実在人物 |
| クラレンス・アングリン | 実名 | 実在人物 |
| 4人目 | チャーリー・バッツ | 実際はアレン・ウェスト |
| 監房後部を削る | 描写あり | 史実 |
| 監房裏の設備空間 | 描写あり | 史実 |
| ダミーヘッド | 描写あり | 史実 |
| レインコート製筏 | 描写あり | 史実 |
| 屋根から脱出 | 描写あり | 史実の骨格と一致 |
| 4人目が残る | 描写あり | 事実。ただし理由が違う |
| 刑務所長との個人的対決 | 大きく描写 | 映画的脚色 |
| ラストの菊 | 描写あり | 公的な脱獄物証ではない |
つまり、
脱獄計画の「機械部分」はかなり実話。
そこへ至る「人間ドラマ」は大きく映画化されている。
と考えると分かりやすくなります。
フランク・モリスとアングリン兄弟は実名で登場する
映画の中心人物、
- フランク・モリス
- ジョン・アングリン
- クラレンス・アングリン
はすべて実在人物です。
FBIによれば、モリスは1960年1月にアルカトラズへ移送され、同年にジョン・アングリン、1961年初めにクラレンス・アングリンが収容されました。
3人は以前の刑務所生活ですでに互いを知っていました。
映画でもアングリン兄弟はモリスと以前から面識がある人物として登場します。
この大枠は史実と一致します。
映画の「チャーリー・バッツ」は実在人物ではない
映画では、モリスとアングリン兄弟に加わる4人目として、
チャーリー・バッツ(Charley Butts)
が登場します。
しかし、1962年の実際の計画参加者にチャーリー・バッツという人物はいません。
実際の4人目は、
アレン・クレイトン・ウェスト
です。
FBIは、
- モリス
- ジョン
- クラレンス
- ウェスト
の4人が脱獄準備を行ったと記録しています。
映画と史実で最も大きく違うのは、4人目が残った理由
映画では脱獄当夜、チャーリー・バッツが監房から出ることをためらい、予定の集合に間に合いません。
AFIの公式あらすじでも、
Charley panics and fails to rendezvous with them
という形で描かれています。
つまり映画では、
恐怖や迷いによって脱獄へ参加できなかった
人物です。
実際のアレン・ウェストは「怖くなって残った」とは限らない
現在のFBI公式説明は違います。
ウェストは自分の監房後部にある換気口グリルを、予定時刻までに完全に取り外せませんでした。
そのため監房から出るのが遅れます。
モリスとアングリン兄弟は先へ進みました。
ウェストはその後、開口部を完成させて設備通路へ出ることに成功しています。
しかし、上部へ向かった時には3人と筏はすでにいませんでした。
最終的にウェストは監房へ戻ります。
したがって、
| 映画 | FBIによる史実再構成 |
|---|---|
| チャーリーが恐怖・迷いで遅れる | ウェストは開口部を予定どおり通れなかった |
| 仲間のところへ行けない | 後から設備通路・上部まで進んだ |
| 心理的失敗として描かれる | 主として物理的な遅延として記録 |
ここは映画と史実の明確な違いです。
FACT CHECK|映画の刑務所長は1962年の実在所長なのか
映画では、パトリック・マクグーハン演じる冷徹な刑務所長が、モリスに対する主要な対立人物として配置されています。
AFIの正式なキャスト表記は単に、
Warden
です。
つまり実在した特定の所長を、そのまま実名で演じている形式ではありません。
1962年の脱獄事件当時、アルカトラズの所長だったのはオリン・G・ブラックウェルでした。
FBIの事件当時の文書にも「Warden Olin Blackwell」の名前が残っています。
さらに実際の事件当日、ブラックウェル不在時には副所長アーサー・ドリソンが施設側の対応に関与しています。
映画の所長は、こうした実在人物をそのまま再現するというより、
アルカトラズという制度そのものを象徴する敵役として再構成された人物
と見るのが適切です。
映画では「モリス対所長」の物語になっている
映画の前半では、
- モリスの私物への干渉
- 囚人への厳しい規則
- ドクの絵画禁止
- モリスの監房捜索
- 別監房への移動命令
などを通して、モリスと所長の対立が強調されます。
これによって観客にとって脱獄は、
「刑務所から逃げる」
だけでなく、
「所長に勝つ」
物語にもなっています。
しかしFBIの事件記録で中心になるのは、
- 4人がどのように計画したか
- どのように壁を加工したか
- 何を作ったか
- どう建物を抜けたか
です。
モリスとブラックウェル所長の個人的な心理戦が、脱獄計画の中心だったことを示す公的資料は確認できません。
ドク、イングリッシュ、リトマス、ウルフはどうなのか
映画には実在の脱獄者以外にも、
- ドク
- イングリッシュ
- リトマス
- ウルフ
といった印象的な囚人が登場します。
AFIのキャスト表にもこれらの人物名は記録されています。
しかし、彼らは1962年脱獄事件においてFBIが記録する主要当事者ではありません。
映画では、
- アルカトラズの過酷さ
- 囚人同士の関係
- 所長の権力
- モリスの人物像
を描くためのドラマ上の役割を担っています。
ただし「ドクの指切断」には実際のアルカトラズ事件の下敷きがある
映画で特に衝撃的なのが、絵を描くことを禁じられたドクが、作業場で自ら指を切断する場面です。
ドクという人物そのものを1962年脱獄事件の実在関係者として扱うことはできません。
しかし、アルカトラズでは実際に似た出来事が起きています。
National Park Serviceの歴史資料には、囚人Rufe Persfulが1937年に斧で自分の左手の指を切断した事件が記録されています。
つまり映画は、
1962年脱獄とは約25年離れた実際のアルカトラズ事件を、別人物のドラマへ組み込んだ
と見ることができます。
これは映画全体の作り方をよく示しています。
完全な創作だけではなく、
アルカトラズで実際に起きた別時代の出来事も組み合わせている
のです。
壁を削る場面はどこまで本当なのか
映画の大きな見せ場は、モリスが監房後部の通気口周辺を少しずつ削っていく場面です。
これは基本的に史実です。
FBIによれば、4人は各監房後部の通気口周辺を加工し、人が通れる開口部を作りました。
その先には監房裏の共用設備通路がありました。
したがって、
「鉄格子ではなく監房の背面を抜けた」
という映画の中心構造は正確です。
ただし、映画の「一本のヤスリから始まった」は映画的整理
映画ではモリスが所長室から爪切り用のヤスリを盗み、それを使って壁を削り始めます。
その後、食堂から持ち出したスプーンなども工具へ加えていきます。
非常に分かりやすい導入です。
しかしFBIの実際の記録では、脱獄準備に使われた工具はもっと多様でした。
- 古い鋸刃
- 加工されたスプーン柄
- 粗製工具
- 掃除機用モーターなどを転用した自作電動工具
などが確認されています。
FBIは計画が本格化した時期について、1961年12月ごろに古い鋸刃を入手したことを一つの契機として説明しています。
したがって映画は、
数種類の工具と長期間の工作を「モリスが小さな道具から可能性を発見する」という一本のドラマへ整理した
と考えられます。
ダミーヘッドは映画の創作ではない
ベッドの枕に置かれた人間の頭。
映画の中でも特に記憶に残る道具ですが、これは実際に使われました。
1962年6月12日の朝、
- フランク・モリス
- ジョン・アングリン
- クラレンス・アングリン
のベッドにはダミーヘッドが残されていました。
FBIは、実際の人毛などを使って人間の頭部に見せ、夜間の巡回を欺いたと説明しています。
さらに4人目のアレン・ウェストも含め、4人がダミーを準備していました。
この点は映画の中でもかなり忠実に再現されています。
ダミーヘッドの材料は映画向けに単純化されている
映画では、紙、塗料、人毛などを使って頭部を作る流れが描かれます。
実際の材料については、公的資料でも記述に多少の差があります。
FBIは現在、
- トイレットペーパー
- 段ボール
- セメント片
- 理髪所から集めた人毛
などを挙げています。
したがって形状と目的は史実に非常に近いものの、
映画の製作工程を、そのまま実物の正確な製法と考えるべきではありません。
レインコート製の筏も本当にあった
映画ではジョン・アングリンが衣料関係の作業を利用してレインコートを集め、筏を作っていきます。
この発想自体は史実と一致しています。
FBIによると、4人は50着を超えるレインコートを集め、
- 約6×14フィートの筏
- 手製救命具
へ加工しました。
木製パドルも作っています。
さらに楽器を空気入れとして使えるよう転用していました。
筏の接合方法は映画とFBI記録で少し違う
映画ではレインコートと接着剤を利用して筏を組み立てる様子が強調されます。
一方、FBIは実際の筏について、
継ぎ目を縫い合わせ、高温の配管を利用して熱と圧力を加えた
と説明しています。
FBIはこれを「vulcanized」と表現しています。
つまり、
レインコートから筏を作ったという核心は実話。
細かな製作工程は映画として整理されている。
という位置づけです。
屋根へ登るルートも実話にかなり近い
映画では3人が監房裏の空間を使い、上部へ登り、屋根へ抜けます。
これもFBIの再構成と一致します。
実際の4人は、
監房
↓
監房裏の設備通路
↓
配管を使って上昇
↓
セルブロック上部
↓
換気口
↓
屋根
という経路を準備していました。
上部の換気口には、加工箇所を隠すため石けん製の偽ボルトまで使われています。
屋根→フェンス→海という流れも史実の骨格と一致する
映画の終盤では、
- 屋根へ出る
- 建物から地上へ降りる
- フェンスを越える
- 海岸へ向かう
- 筏を膨らませる
- 海へ出る
という流れが描かれます。
現在のFBIも、
- 屋根へ出た
- 建物外部を降りた
- フェンスを越えた
- 島の北東岸へ移動した
- 筏を進水させた
と再構成しています。
したがって、
映画終盤の脱獄ルートは、事件の主要部分をかなり正確に映像化している
と言えます。
ただし「3人が筏で海へ進む姿」は確認された史実ではない
映画では観客が3人とともに海へ出ます。
しかし実際の事件で、
- 3人が筏へ乗った瞬間
- 3人がパドルを使う姿
- 海上を移動する3人
を目撃した人物はいません。
FBIが北東岸からの筏進水を再構成しているのは、
- ウェストの証言
- 刑務所内からなくなった筏・救命具
- 湾内で発見されたパドル
- 救命胴衣
- アングリン兄弟の個人物品
などを組み合わせた結果です。
したがって映画の海上シーンは、
FBIの有力な再構成を視覚化したもの
であって、目撃された出来事の再現ではありません。
映画の最大の創作――菊の花
映画では「菊」が一つの象徴として使われます。
ドクが育てていた花。
所長によって踏みにじられる花。
そして脱獄後、捜索中の所長が島外で見つける花。
ラストでは、
3人が生き延びたのではないか
という可能性を観客へ残す役割を果たします。
しかし、FBIが記録する1962年脱獄後の主要物証には、
- パドル
- 救命胴衣
- 防水された個人物品
- ゴム素材
などはありますが、
脱獄者が残した菊の花は確認されていません。
したがってラストの花は、
未解決事件へ映画として余韻を与えるための演出
として見る必要があります。
映画は「生存」を断定しているのか
完全には断定していません。
映画の終盤でも、3人がその後どこで生活したのかまでは描かれません。
一方、菊の花を配置することで、
「もしかすると成功したのではないか」
という方向へ観客の感情を誘導します。
史実では、第7回・第8回で確認したとおり、
- 死亡は確認されていない
- 生存も確認されていない
状態です。
その意味では映画も、最終的な行方を描き切らない点では実際の事件に近い終わり方を選んでいます。
エンドロールの「アルカトラズは翌年閉鎖」には注意
AFIによれば、映画のエンドクレジットでは、
3人に対する大規模な捜索が行われ、遺体は見つからず、アルカトラズが1年以内に閉鎖されたことが示されます。
時系列としては正しいです。
アルカトラズ連邦刑務所は1963年3月21日に閉鎖されました。
脱獄から約9か月後です。
しかし、
脱獄事件が原因でアルカトラズが閉鎖されたわけではありません。
FACT CHECK|3人が脱獄したから刑務所は閉鎖されたのか
Federal Bureau of Prisonsはこの点を明確に否定しています。
閉鎖方針は3人が消える以前から検討・決定されていました。
大きな理由は費用です。
施設を継続利用するには大規模な修復費が必要でした。
さらに島には淡水源がなく、
- 水
- 食料
- 燃料
- その他の物資
を船で運ばなければなりませんでした。
BOPによれば、アルカトラズの運営費は他の連邦刑務所より大幅に高く、新しい施設を建設する方が経済的だと判断されました。
したがって、
「1962年脱獄 → 警備の失敗 → アルカトラズ閉鎖」
という因果関係ではありません。
映画と史実を10項目で判定する
| 映画の描写 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| モリスとアングリン兄弟が脱獄 | FACT | 実在する3人 |
| 4人で計画 | FACT | 実際はアレン・ウェストを含む4人 |
| 4人目が残る | FACT | ウェストは脱獄できなかった |
| 4人目が怖くなって遅れる | 脚色 | FBIは換気口グリルを外せなかったと説明 |
| 監房後部の穴 | FACT | FBI写真・捜査記録あり |
| 偽の頭 | FACT | 現物が現在も証拠として保存 |
| レインコート製筏 | FACT | 50着超を使用 |
| 屋根から島外周へ脱出 | 概ねFACT | 細部に資料差はあるが経路の骨格は一致 |
| 脱獄後の菊の花 | 映画的演出 | 公的な脱獄物証として確認されていない |
| 脱獄が原因で刑務所閉鎖 | 誤解 | 閉鎖決定は事件以前から進行 |
映画が史実より大きくした