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Deepwater Horizon事故爆発後、126人はどう退避したのか

爆発・火災後のDeepwater Horizon(2010年4月、U.S. Coast Guard)
U.S. Coast Guard 出典 Public Domain

THE QUESTION

爆発後、126人はどう退避したのかについて、この回が担う固有の論点は何か。

STORY SO FAR

前回「BOPはなぜ最後の壁になれなかったのか」で確認した論点を受け、この回では爆発後、126人はどう退避したのかについて、この回が担う固有の論点は何か。を扱う。

2010年4月20日夜、Deepwater Horizonでは爆発と火災が発生し、126人が乗っていたリグは短時間で通常の作業環境から避難・救助の現場へ変わった。[1]

最終的に115人が生還し、11人が死亡した。16人は負傷した。生還者の多くはlifeboatとliferaftでリグを離れ、一部は海へ飛び込み、近くにいたoffshore supply vessel Damon B. Bankstonのfast rescue craftなどによって救助された。

この結果だけを見ると「lifeboatが正常に働き、全員が順番に退避した」ようにも見える。しかしU.S. Coast Guardの調査は、実際の避難が爆発、火災、負傷者、通信混乱、不完全なmuster、熱にさらされたlaunch area、liferaft操作の問題の中で進んだことを示している。

一方で、lifesaving appliancesの冗長性、近くにいたDamon B. Bankstonの即応、fast rescue craftの存在は多くの命を救った。事故調査は、避難システムの欠点と救助行動の有効性を同時に記録している。


CASE FILE 50|Deepwater Horizon事故 2010
第7回では、well-controlの技術原因から離れ、爆発後のmuster、lifeboat/liferaft launch、海上救助、medical evacuationを人命・emergency responseとして追う。[1]

126人のうち115人が生還した

U.S. Coast GuardのReport of Investigationによれば、事故時Deepwater Horizonには126人が乗っていた。

爆発・火災後、115人がリグから退避して生還した。11人は行方不明となり、後に死亡したものとして扱われた。16人が負傷した。

現在のUSCG事故ページも、事故が11人の命を奪い、16人を負傷させたと記録している。

この11人について、本記事では事故現場の損傷や個別の死亡状況を扇情的に描写しない。事故調査で確認された範囲に限定し、避難システム全体の機能と限界を中心に扱う。

爆発後、完全なmusterはできなかった

船舶やMODUでemergencyが起きた場合、musterは「誰がどこにいるか」を確認する基本手順である。

Deepwater Horizonでも乗員はassigned muster stationへ向かうことになっていた。しかし爆発と火災の直後、通常のmusterを最後まで完了することはできなかった。

USCGは、Deepwater Horizonが複数のemergency drillsを行っていた一方、well blowoutからabandon shipへ至るscenarioのdrillを実施していなかったと指摘している。また実際のevacuationではcomplete muster、つまり全員のheadcountがリグ上で完了しなかった。

Marshall Islandsの事故調査も、極端な火災・爆発状況では完全なmusterを取ること自体が安全上困難だったと認めつつ、不完全なmusterがその後のsearch and rescueとpersonnel accountingに混乱を加えたと評価している。

つまり、musterを完了できなかったことだけを現場crewの手順違反として切り取るのは正確ではない。危険が急速に拡大していたため「全員が揃うまで待つこと」と「生存している人を早くlaunchすること」の間に現実的なtrade-offがあった。

二つのlifeboatと一つのliferaftが使われた

Marshall Islands 報告書によれば、Deepwater Horizonからは2隻のlifeboatと1隻のliferaftがsuccessfully launchedされ、実際のevacuationに使われた。

約107人の生還者が、この2隻のlifeboatと1隻のliferaftに乗って退避した。

各lifeboatのrated capacityは73人だった。つまり数だけ見れば2隻で146人を収容できる。ただし実際には負傷者をseat上へ横たえる必要があり、物理的な使いやすさは単純な定員計算とは一致しなかった。

USCGも、当時のlifeboat design / testing requirementsが、stretcherを安全に収容することや、現代のoffshore workerの体格を十分に考慮していなかったと指摘している。

「定員が足りていた」ことと、「重傷者を含む実際のemergencyで安全・迅速に使える」ことは同じではない。

lifesaving appliancesの冗長性は命を救った

一方、Deepwater Horizonには一方のsideが使えなくても反対側からevacuateできるよう、複数のmuster / embarkation stationsとredundant survival craftが用意されていた。

Marshall Islands 報告書は、widely separated muster / embarkation stationsと、乗員100%以上を収容できるredundant lifeboats / liferaftsが、生命を救うcritical factorだったと評価している。

これはindustrial safetyでいうredundancyの意味をよく示している。

通常時には「同じ機能のboatが多すぎる」ように見えても、火災で一方向のaccessが失われたり、一部launch stationへ近づけなくなったりすれば、反対側の設備が唯一の脱出手段になる。

liferaft launchでは別の問題が起きた

lifeboatsだけで全員が退避したわけではない。

負傷者を含む乗員の一部はliferaftを使った。しかしUSCGは、liferaft launch areaにintense heatから十分にshieldするbarrierがなく、火災によってraft自体が危険にさらされたと指摘している。

さらにcrewはliferaftをlaunchする際、sea painterと呼ばれるlineをDeepwater Horizonからreleaseできなかった。

Marshall Islands 報告書では、liferaftがwaterへ降りる際にsea painterがhandrailへ結ばれたままで、lineが張ったことでraftが傾き、乗員が片側へ投げ出されたと記録している。少なくとも1人がraftからwaterへ落ちた。

raftが海上へ降りた後も、sea painterはまだrigにつながっていた。

最終的にDamon B. Bankstonのfast rescue craftが到着し、knifeを渡してlineを切断することができた。そこからliferaftはburning rigから曳航され、安全な距離へ移された。

一部の乗員は海へjumpした

evacuationの終盤では、lifeboatやliferaftだけでなく、直接海へjumpした乗員もいた。

Marshall Islands 報告書によれば、Master、Senior Dynamic Positioning Officer、Motor Operator、Chief Electronics Technicianらが最後までrig上に残った後、liferaft launch後に海へjumpする判断をした。

Damon B. Bankstonのfast rescue craft crewは、Deepwater Horizonのbridge付近から複数人がjumpするのを目撃し、water上のpersonnelを回収した。

報告書では、fast rescue craftによってwaterから救助された乗員は全員lifejacketを着用していたとされる。

この事実は、personal flotation equipmentというもっとも基本的なbarrierが、最後の段階で実際に機能した例でもある。

Damon B. Bankstonはなぜ重要だったのか

Deepwater Horizonのすぐ近くには、offshore supply vessel Damon B. Bankstonがいた。

このvesselは事故直後から、lifeboats / liferaftの受け入れ、waterにいるsurvivorsの回収、負傷者のmedical support、他船・aircraftとの連携に入った。

USCG Volume Iは、Deepwater HorizonのevacuationがDamon B. Bankstonの存在とfast rescue craftによってsubstantially aidedされたと評価している。

少なくとも15人のsurvivorsがfast rescue craftの支援を受けた。

USCGはさらに、Damon B. Bankston crewの行動を高く評価し、115人の生還者を安全に回収し、search and rescue、firefighting、medical responseを支えたとしてPublic Service Award等をrecommendしている。

BOEMRE側の報告書も、Damon B. BankstonとRamblin Wreckのcrewが迅速にsearch and rescueを指揮し、muster、clothing、medical attention、injured personnelのtransferを支援しなければ、death tollはさらに大きくなった可能性があるとしている。

fast rescue craftが埋めた「最後の距離」

lifeboatやliferaftは、乗員をburning rigから離すためのprimary survival craftである。

しかし海へjumpした人を回収したり、漂流するraftへ近づいたり、burning 構造の近くで細かくmaneuverするには、小型で高速なrescue craftが有利である。

Damon B. Bankstonのfast rescue craftは、この「survival craftとsupport vesselの間」の最後の距離を埋めた。

USCGは、Deepwater Horizon自体にはfast rescue craftを搭載するregulatory requirementがなかったと指摘している。一方で事故対応では、その機能が少なくとも15人のsurvivorsを直接支援した。

事故後、USCGはMODU等にfast rescue boat/craftを持たせる必要性を検討するようrecommendした。

負傷者はどうmedical evacuationされたのか

survivorsがDamon B. Bankstonへ移ったあと、次の課題は負傷者のtriageとmedical evacuationだった。

Marshall Islands 報告書は、Deepwater Horizonから16人がhelicopterでmedevacされたと記録している。

重傷者はstretcherで扱う必要があり、lifeboat内部のspace、Bankstonへのtransfer、helicopter evacuationという複数段階を経た。

National Commission 報告書によれば、Coast Guard helicopterが現場へ到着し、rescue swimmerがmedical evacuationを支援した。その後複数のhelicoptersによって負傷者がmainland hospitalsへ運ばれた。

この段階では、事故対応の中心は「rigから脱出すること」から「survivorsを数え、負傷者を安定化し、shoreへ運ぶこと」へ移っていた。

なぜ11人を救えなかったのか

この問いには、事故調査資料だけでは完全な答えを出せない。

11人は爆発後にmissingとなり、死亡したものと扱われた。しかし全員について同一の死亡過程が確認されたわけではない。

National Commissionは、Bankston上でmusterを進めた段階で、特にdrill floorで働いていたpersonnelがmissingであることが明らかになったと記録している。

ただし、個々の最後の行動や死亡状況を、証拠以上に再構成すべきではない。

このCASE FILEでは、11人の死亡を事故規模の数字として消費せず、well-control failureが実際に人命喪失へつながった結果として扱う。

complete musterがなかったことは何を変えたか

complete musterができなかったため、survivorsがBankstonへ集まった後も「誰がmissingなのか」を確定する作業が必要になった。

Marshall Islands 報告書は、incomplete musterがsearch and rescue operationsとpersonnel accountingを混乱させたとする。

ただし同報告書は、極端なemergencyではmuster完了を待つこと自体が非現実的・危険になり得るとも認めている。

このtrade-offは重要である。

emergency planは「必ず全員countしてからboatを出す」という一本道では足りない。火災、gas release、structural damageなどによりmusterが不可能な場合でも、evacuationしながらpersonnel accountabilityを維持できるsecondary methodが必要になる。

事故後にlifesaving requirementsはどう変わったか

Deepwater Horizonのinvestigationはlifeboat design、muster、drills、heat exposure、fast rescue craftなど複数のlifesaving issuesをrecommendationへつなげた。

USCGは、emergency contingency drillsのtype / frequency / evaluation criteria、lifesaving appliance standards、muster / launch stationのheat exposure、MODU上のfast rescue boat/craftなどを見直すようrecommendした。

その後IMO MODU CodeにもDeepwater Horizonのlessonsを反映するamendmentsが加えられ、lifesaving weight increasesやdedicated rescue boatsなどが要求へ取り込まれている。

これは、事故後のreformがwell-control equipmentだけではなく、事故が起きてしまった後に人をどう生還させるかというmitigation側にも及んだことを示す。

避難時系列|何が生命をつないだのか

この記事では補助図として、explosion後のevacuationを次の流れで整理する。

  1. explosion / fire → normal work stops
  2. personnel move toward muster / embarkation areas
  3. complete muster cannot be completed
  4. two lifeboats + one liferaft launched
  5. approximately 107 of 115 survivors leave in these survival craft
  6. some personnel jump into the sea
  7. Damon B. Bankston fast rescue craft recovers people / assists liferaft
  8. 115 survivors consolidated and accounted for
  9. 16 injured personnel medevaced

この図は「全員が同じrouteで避難した」という誤解を避けるため、lifeboat、liferaft、jump-to-water、fast rescue craftのbranchを分ける。

Deepwater Horizon evacuation flow Schematic flow of evacuation after the explosion: muster attempts, two lifeboats and one liferaft, some personnel jumping into the water, Damon B. Bankston fast rescue craft assistance, survivor consolidation, and helicopter medical evacuation. Deepwater Horizon|evacuation flow 人命・避難経路の模式図|人数カテゴリは重複あり・単純加算しない

EXPLOSION / FIRE

MUSTER / EMBARKATION complete headcount could not be completed onboard

2 LIFEBOATS + 1 LIFERAFT 約107 / 115 survivors liferaft sea-painter problemあり

JUMP TO WATER 一部乗員が直接海へ recovered personnel wore lifejackets

DAMON B. BANKSTON + FAST RESCUE CRAFT survivor recovery / liferaft tow / medical support

115 SURVIVORS → 16 INJURED MEDEVAC

Sources: U.S. Coast Guard ROI Vol.I; Republic of the Marshall Islands DWH Investigation Report. Schematic.

地理Mapは不要

検証ポイント|115人は全員lifeboatで脱出した?

違う。

Marshall Islands 報告書では、約107人が2隻のlifeboatと1隻のliferaftでevacuateした。

残るsurvivorsの一部はwaterへjumpし、Damon B. Bankstonのfast rescue craftなどの支援を受けた。

USCGはfast rescue craftが少なくとも15 survivorsをassistしたとしているため、「107 + 15 = 122」のように単純加算もできない。[2]fast rescue craftはliferaft towなど、すでにsurvival craftにいた人へのassistanceも含むためである。

数字は役割ごとに重複する可能性があり、「何人がどの一手段だけで救われたか」という排他的分類にはしない。

まとめ|避難は成功だったのか

115人が生還したという結果だけを見るなら、多くのlifesaving systemsと救助行動が機能した。

2隻のlifeboatと1隻のliferaftは多数の乗員をrigから離し、lifejacketsはwaterへ入った乗員を支えた。Damon B. Bankstonのfast rescue craftはburning rig周辺でpersonnel recoveryとliferaft assistanceを行い、support vesselは負傷者medical responseの拠点になった。

一方、investigationは明確な弱点も記録した。

complete musterはできず、well blowoutからabandon shipへ至るdrillは行われていなかった。liferaft launch areaはheat exposureから十分protectedされず、launch時にはsea painter handlingで問題が起きた。lifeboatの実際のseating / stretcher accommodationにも課題があった。

したがって、evacuationを「成功」「失敗」の二択で評価するより、冗長なlifesaving appliancesと現場の救助行動が多くの命を救った一方、system designとtrainingに改善余地が残ったと見る方が正確である。

次の記事では、乗員がrigを離れた後も続いた別のemergency、海底からの油流出をどう止めようとしたのかを87日間のresponseとして追う。

次の記事

87日間の流出はどう止められたのか
ROV intervention、containment dome、riser insertion、top kill、capping stack、static kill、relief wellを時系列で整理し、7月15日のflow stopと9月のpermanent sealを区別する。

CASE FILE 50|全10回

  1. Deepwater Horizon事故とは何だったのか
  2. Deepwater Horizon事故|水深約1500mのMacondo井では何をしていたのか
  3. Deepwater Horizon事故|セメントと坑井障壁はなぜ破れたのか
  4. Deepwater Horizon事故|陰圧試験はなぜ「成功」と判断されたのか
  5. Deepwater Horizon事故|キックはどう暴噴へ進んだのか
  6. Deepwater Horizon事故|BOPはなぜ最後の壁になれなかったのか
  7. 現在の記事:Deepwater Horizon事故|爆発後、126人はどう退避したのか
  8. Deepwater Horizon事故|87日間の流出はどう止められたのか
  9. Deepwater Horizon事故|環境被害はどこまで広がり、何が回復途上なのか
  10. Deepwater Horizon事故|調査は何を問題とし、規制はどう変わったのか

FACT CHECK|出典・参考資料

  1. [1] U.S. Coast Guard, Report of Investigation into the Circumstances Surrounding the Explosion, Fire, Sinking and Loss of Eleven Crew Members Aboard the MODU Deepwater Horizon, Volume I 115 survivors、11 missing/presumed deceased、16 injured、muster / evacuation deficiencies、lifeboat / liferaft issues、Damon B. Bankston fast rescue craft、recommendationsの確認に使用。
  2. [2] Republic of the Marshall Islands, Deepwater Horizon Marine Casualty Investigation Report 2 lifeboats + 1 liferaft、約107 survivors、liferaft sea painter、jump-to-water、fast rescue craft recovery、16 medevacsの詳細に使用。
  3. [3] National Commission on the BP Deepwater Horizon Oil Spill and Offshore Drilling, Final Report Bankston上でのsurvivor consolidation、medical response、muster後のmissing personnel確認の補助に使用。
  4. [4] BOEMRE / U.S. Coast Guard Joint Investigation Team Report Damon B. Bankston / Ramblin Wreck crewのsearch and rescue contribution評価に使用。
  1. 01 Deepwater Horizon事故とは何だったのか
  2. 02 Deepwater Horizon事故|水深約1500mのMacondo井では何をしていたのか
  3. 03 Deepwater Horizon事故|セメントと坑井障壁はなぜ破れたのか
  4. 04 Deepwater Horizon事故|陰圧試験はなぜ「成功」と判断されたのか
  5. 05 Deepwater Horizon事故|キックはどう暴噴へ進んだのか
  6. 06 Deepwater Horizon事故|BOPはなぜ最後の壁になれなかったのか
  7. 07 Deepwater Horizon事故|爆発後、126人はどう退避したのか
  8. 08 Deepwater Horizon事故|87日間の流出はどう止められたのか
  9. 09 Deepwater Horizon事故|環境被害はどこまで広がり、何が回復途上なのか
  10. 10 Deepwater Horizon事故|調査は何を問題とし、規制はどう変わったのか

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