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Deepwater Horizon事故水深約1500mのMacondo井では何をしていたのか

Deepwater Horizonから海底BOP、Macondo井までの構造を示す模式図
REAL CASE FILE SELF-DIAGRAM

STORY SO FAR

前回「Deepwater Horizon事故とは何だったのか」で確認した論点を受け、この回では水深約1500mのMacondo井では何をしていたのかについて、この回が担う固有の論点は何か。を扱う。

Deepwater Horizon事故を理解するうえで、最初に押さえるべきなのは「どこで何をしていたのか」である。Deepwater Horizonは海底油田から原油を生産し続ける固定式プラットフォームではなく、海上から井戸を掘るための移動式海洋掘削装置、MODU(Mobile Offshore Drilling Unit)だった。

事故当時、リグの約1,500メートル下にはメキシコ湾の海底があり、その海底にはMacondo井のwellheadとBOP(blowout preventer、暴噴防止装置)が設置されていた。BOPから海面上のリグまではmarine riserという大径の管でつながれ、その内部をdrill pipeや掘削泥水、各種工具が上下していた。

さらに井戸は海底から地下深くへ続いていた。Macondo井の実際のtotal depthは18,360フィートだった。これは約5,000フィートの海水を越えたさらに下に、1万フィートを超える地下の井戸区間が存在していたことを意味する。事故を「海上のリグで起きた爆発」とだけ見ると、原因が海面より何千メートルも下にあったことが見えなくなる。

そして2010年4月20日、Deepwater Horizonが行っていたのは、新しい油層を掘り進める通常の掘削ではなかった。探索井としての掘削をほぼ終え、将来の生産まで井戸を安全に休止させるtemporary abandonment、一時放棄の最終段階だった。


CASE FILE 50|Deepwater Horizon事故 2010
第2回では、リグ、riser、BOP、wellhead、casing、cement、drilling mudがどうつながっていたのかを縦断構造で整理する。事故原因そのものの評価は次回以降に分ける。

Deepwater Horizonは「石油を生産する海上施設」ではない

Deepwater HorizonはTransoceanが所有・運用していた半潜水型のmobile offshore drilling unitだった。CSBによれば、船体は約396フィート×256フィートで、最大146人を収容できた。アンカーで海底に固定するのではなく、衛星測位とthrusterを使うdynamic positioningによって、海底の井戸の真上に位置を保つ方式だった。

この違いは重要である。Deepwater Horizonの役割は、海底下の地層へ井戸を掘り、井戸を構築し、必要な試験を行うことだった。探索の結果、商業的に使える油・ガス層が確認されれば、掘削リグはいったん現場を離れ、後で別の設備やリグが戻って井戸を生産用に仕上げる。

つまり、事故当時のMacondoは「生産中の油井」ではなく、探索井から将来の生産井へ移行する途中にあった。CSBは、Macondoが探索井として掘られながらも、成功した場合には将来production wellとして使えるよう設計されていたと説明している。

Macondoの掘削は2009年10月にTransoceanのMarianasで始まった。Marianasがハリケーンで損傷したため、Deepwater Horizonが引き継ぎ、2010年1月31日に現場へ到着し、2月から掘削を再開した。[1]

海面から井戸の底まで、何がつながっていたのか

事故時の構成を上から順に見ると、次のようになる。

  • 海面:Deepwater Horizon。drill floor、泥水システム、ポンプ、計測設備などがある。
  • 海中:marine riser。リグと海底BOPをつなぐ大径管。
  • 海底:BOP stackとwellhead。井戸の最上部に取り付けられた圧力制御設備。
  • 海底下:複数段のcasingとcementで形成されたwellbore。
  • 深部:油・天然ガスを含む高圧の地層。

BSEEとUSCGのSafety Alertでは、事故時のDeepwater Horizonは岸から52マイル離れ、水深4,992フィートの場所でsubsea BOP stackを使用していたとされる。CSBもMacondoをルイジアナ州から約50マイル沖、約5,000フィートの水深としている。

海面と海底の間にある約5,000フィートのriserは、単なる「配管」ではない。掘削時にはdrill pipeや各種toolsを井戸へ下ろす経路であり、井戸から戻ってくるdrilling mudをリグへ戻す経路でもある。CSBは、掘削泥水がdrill pipeの内部を下り、drill bitを通り、削られた岩石を運びながらannulusを上昇し、riserを通ってリグへ戻る基本循環を説明している。

このため、地下から炭化水素が井戸へ侵入した場合、その流れが止められなければ、wellboreからBOP、riserを経てリグへ到達する経路が成立する。事故当日に起きたのは、まさにこの経路を逆向きに高圧の炭化水素が上昇する事態だった。

Macondo井はどこまで掘られていたのか

Macondo井のactual total depthは18,360フィートだった。National Academiesの報告では、当初はさらに深くまで掘削する計画だったが、実際には18,360フィートで掘削を終え、9 7/8インチから7インチへテーパーするproduction casingのlong stringを設置したと整理されている。

「18,360フィート」という数値を水深と混同してはいけない。海面から海底までが約4,992フィートあり、そのさらに下へ井戸が伸びている。total depthは井戸の掘削長を示すmeasured depthであり、単純な垂直高さそのものと完全に同じとは限らない。このCASE FILEでは、図もnot to scaleと明記し、海水深とwell measured depthを別の値として表示する。

井戸の途中には、太さの異なる複数のsteel casingが段階的に入れられていた。深く掘るほど、地層の圧力と破壊しやすさが変化するため、一つの直径の穴を地表から底まで掘り続けるわけではない。一定区間を掘るたびにcasingを入れ、周囲をcementで固定し、その内側からさらに細い径で次の区間を掘る。

National Academiesは、Macondoでは最終的に9本のcasing string/linerが使われ、最後に9 7/8インチ×7インチのtapered production casing、いわゆるlong stringが設置されたとしている。詳細なcasing設計が事故にどう影響したかは、第3回のcement barrierで扱う。

drilling mudは「掘るための液体」であり、同時に安全装置でもある

掘削泥水は、削った岩石を地上へ運ぶだけの液体ではない。井戸の中にある流体柱そのものが、地下の地層圧力へ対抗する主要なbarrierになる。

液体は自重によって下方へhydrostatic pressureを加える。井戸内のdrilling mudによる圧力が地層のpore pressureより高ければ、地下の油・ガスが井戸へ入り込みにくい。この状態をoverbalancedという。逆に、流体柱の圧力が地層圧力より低くなればunderbalancedとなり、油・ガスが井戸へ流れ込むkickが起こり得る。

しかし、泥水は重ければ重いほど安全というわけでもない。圧力を上げすぎれば、今度は地層を破壊して泥水が地層へ逃げるlost circulationを起こす。つまり掘削では、「地下から流体を入れないために十分重い」一方、「地層を壊さない程度には軽い」という範囲にmud weightを保つ必要がある。

Macondoでは深部でpore pressureとfracture gradientの差が小さくなり、安全なdrilling marginが狭かった。これが井戸設計や作業を複雑にした。ただし、第2回では「難しい井戸だったから事故が起きた」と結論づけない。重要なのは、事故当日の作業でも泥水柱が物理的なbarrierとして重要だったという構造である。

casingとcementは何をしていたのか

wellboreの壁をそのまま露出させた状態では、地層が崩れたり、異なる圧力を持つ地層同士がつながったり、油・ガスが意図しない経路へ流れたりする。そこでsteel casingを入れ、その周囲のannulusへcementを配置し、井戸を構造的・圧力的に区切っていく。

CSBは、井戸制御の物理的barrierとして、drilling fluidの流体柱、steel casingとcement、坑底を封じるcement、海底に近い位置へ後で設置するsurface cement plug、BOPを挙げている。

Macondoでは、最終のproduction casingが将来の生産にも使われる重要な構造だった。その最下部、shoe trackを含むcement barrierが炭化水素を隔離する役割を持っていた。このbarrierが実際にはどう失敗したのかは、第3回で扱う。

BOPは海底にあった

BOPはリグの直下ではなく、約5,000フィート下の海底、wellheadの上に設置されていた。CSBによれば、Deepwater HorizonのBOPは高さ約57フィート、重量約400トンに達する巨大な装置だった。

BOPには複数のsealing elementが積み重ねられている。drill pipeの周囲を締め付けて流れを止めるもの、pipeがないopen holeを閉じるもの、非常時にdrill pipeを切断して井戸を封じるblind shear ramなど、役割が異なる。

BOPには大きく二つの役割がある。第一は、kickを検知した作業員が手動で閉じて井戸をcontrolすること。第二は、重大な緊急時にpipeをshearして井戸を封じ、必要ならリグを井戸から切り離す最終的なmitigation systemとして働くことである。

つまりBOPは、「普段は閉じている安全弁」ではない。掘削や作業中はdrill pipeやtoolsが内部を通り、状況に応じて各elementを操作する圧力制御システムだった。この構造が、後にblind shear ramがなぜ完全に井戸を封じられなかったのかという第6回の論点につながる。

temporary abandonmentとは「廃井」ではない

日本語で「一時放棄」と書くと、井戸を捨てる作業のように見える。しかしMacondoで行っていたtemporary abandonmentは、将来もう一度利用することを前提に、掘削リグが現場を離れられるよう井戸を安全な状態にする標準的な工程だった。

National Academiesは、production用に後で使う井戸をtemporarily abandonすること自体は標準的なpracticeだと説明している。高価なdrilling rigをその場に残す必要がなくなり、その間に生産設備や輸送インフラを準備できる。

最終的には、井戸の内部へ複数のbarrierを残し、riserとBOPを撤去しても地下の炭化水素が海底へ流れ出さない状態にしなければならない。Macondoではsurface cement plugを設置し、wellhead側の構成を整えたうえで、Deepwater Horizonが現場を離れる計画だった。

4月20日はどの段階だったのか

事故当日のcrewは、すでにexploratory drillingを終え、temporary abandonmentを進めていた。CSBの整理では、wellをpressure testし、炭化水素を含む地層が隔離されていることを確認した後、negative pressure testを行い、その後riser内の重いdrilling mudをseawaterへ置き換える計画だった。

ここに重要な物理変化がある。drilling mudは高密度で、長い流体柱として地下へhydrostatic pressureをかけている。これを密度の低いseawaterへ置き換えれば、井戸底へ加わる圧力は下がる。

そのため、mudを抜く前には「泥水柱に頼らなくても、cementなど他のbarrierだけで地下の圧力を止められる」ことを確認しなければならない。その確認がnegative pressure testだった。

CSBは、最終的にnegative pressure testが誤ってpassと判断された後、crewがwellboreとriser内のdrilling mudをseawaterへ置換する作業を続けたと説明している。この時点ではsurface cement plugはまだ設置されていなかった。mud columnが減り、cement barrierも実際には健全でなかったため、井戸制御はkickの早期検知とBOP操作へ大きく依存する状態になった。

この「mudをseawaterへ置き換える」という一見単純な作業が、なぜ事故の分岐点になったのかを理解するには、temporary abandonmentがbarrierを入れ替える工程だったと考えると分かりやすい。

事故当時のbarrierを順番に見る

井戸制御を一枚の壁ではなく、重なったbarrierとして見ると構造が整理できる。

  1. drilling mud:流体柱の重量で地層圧力に対抗する。
  2. casing / cement:地層とwellboreを隔離し、意図しない流路を防ぐ。
  3. temporary plug:リグ撤去後も井戸を封止する。事故時点では予定されたsurface cement plugがまだ未設置だった。
  4. kick detection / well-control operation:流入が始まった場合に計測値から検知し、BOPなどを操作する。
  5. BOP:井戸を機械的に閉じ、必要ならpipeを切断して封止する。

temporary abandonmentでは、あるbarrierを外す前に別のbarrierが成立していることを確認しなければならない。Macondoでは、heavy mudをseawaterへ置換する前提として、production casingのcement barrierが機能していると判断された。

その判断が正しかったのかが第4回のnegative pressure testであり、そもそもcement barrierがなぜ健全でなかったのかが第3回である。第2回の役割は、それらの議論に入る前に「何がどこにあり、何が何を支えていたのか」を固定することにある。

技術図|Deepwater HorizonからMacondo井底まで

この記事では、海面上のDeepwater Horizon、約4,992フィートの海水、marine riser、海底BOP、wellhead、複数段のcasing、production casing、18,360フィートMDの井戸底を一枚の縦断図で示す。

図は構造理解用の模式図であり、各区間の長さやcasing径を同一縮尺では描かない。特にwater depthとwell total measured depthは別の量として表示する。位置や深度の見た目から、実際の距離比を推測できる図にはしない。

また、事故時点で予定されていたsurface cement plugは「未設置」と明示する。これにより、事故時の状態とtemporary abandonment完了後に予定されていた状態を混同しないようにする。

Deepwater HorizonからMacondo井底までの模式図 海面上のDeepwater Horizon、約4,992フィートの海水、marine riser、海底BOP、wellhead、production casing、18,360フィートMDの井戸底を示す縮尺不同の模式図。 Deepwater Horizon → Macondo井|縦断模式図 構造理解用・NOT TO SCALE|water depthとwell measured depthは別の量

海面

Deepwater Horizon dynamic-positioned MODU

marine riser drillpipe / mud / tools の経路

水深 4,992 ft 約1,500 m

海底

BOP 約57 ft high / 約400 tons wellhead上に設置

複数段の casing + cement 最終: 9 7/8" × 7" production casing long string

hydrocarbon-bearing zones

actual total depth 18,360 ft MD

planned surface cement plug 事故時点では未設置

掘削・一時放棄で使う主なbarrier 1. drilling mud のhydrostatic pressure 2. casing + cement 3. plug / kick detection / BOP

Sources: CSB Macondo Investigation Report Vol.1; BSEE/USCG Joint Investigation; National Academies. Schematic, not to scale.

地理より構造理解を優先

検証ポイント|Deepwater Horizonが海底から原油を生産していた?

違う。

Deepwater HorizonはMacondoでexploration drillingとwell constructionを行っていたdrilling rigであり、事故時にMacondoから商業生産を行っていたproduction platformではない。探索の結果は将来のproductionに使えると判断されていたが、事故当日はその前段階だった。

この区別は、temporary abandonmentの意味を理解するうえで重要である。Deepwater Horizonが現場を離れても井戸そのものは残り、将来別の設備が戻ってproduction用に仕上げる想定だった。そのため「リグを安全に撤去できる状態」と「井戸を永久に廃止する状態」は同じではない。

まとめ|事故当時、何をしていたのか

2010年4月20日のDeepwater Horizonは、約4,992フィートの深海にあるMacondo井で、探索井の掘削を終えた後のtemporary abandonmentを進めていた。[3]

海面上にはdynamic positioningで位置を保つDeepwater Horizon、海中には約5,000フィートのmarine riser、海底には高さ約57フィート・約400トンのBOP、その下には複数段のcasingとcementで構成された井戸があり、actual total depthは18,360フィートだった。[3]

井戸の安全は、drilling mudのhydrostatic pressure、casingとcement、試験、kick detection、BOPという複数のbarrierに支えられていた。temporary abandonmentでは、そのbarrier構成を「掘削中の状態」から「リグが離れても安全な状態」へ切り替えていく必要があった。

事故は、この切り替えの途中で起きた。次の記事では、その最初の重大な物理barrierだったproduction casing下部のcementが、なぜ炭化水素を止められなかったのかを追う。

次の記事

セメントと坑井障壁はなぜ破れたのか
production casing、shoe track、annulus、float collarを分けて確認し、事故調査が「cement barrierの失敗」をどこまで確定し、どこから先を複数可能性として残したのかを整理する。

CASE FILE 50|全10回

  1. Deepwater Horizon事故とは何だったのか
  2. 現在の記事:Deepwater Horizon事故|水深約1500mのMacondo井では何をしていたのか
  3. Deepwater Horizon事故|セメントと坑井障壁はなぜ破れたのか
  4. Deepwater Horizon事故|陰圧試験はなぜ「成功」と判断されたのか
  5. Deepwater Horizon事故|キックはどう暴噴へ進んだのか
  6. Deepwater Horizon事故|BOPはなぜ最後の壁になれなかったのか
  7. Deepwater Horizon事故|爆発後、126人はどう退避したのか
  8. Deepwater Horizon事故|87日間の流出はどう止められたのか
  9. Deepwater Horizon事故|環境被害はどこまで広がり、何が回復途上なのか
  10. Deepwater Horizon事故|調査は何を問題とし、規制はどう変わったのか

FACT CHECK|出典・参考資料

  1. [1] U.S. Chemical Safety Board, Macondo Investigation Report Volume 1 Deepwater Horizonの構造、dynamic positioning、Macondoの探索井としての位置づけ、drilling mud、riser、casing、cement、temporary abandonment、BOPの基本構造に使用。
  2. [2] Bureau of Safety and Environmental Enforcement / U.S. Coast Guard, Joint Investigation Team Report Volume II Macondoの位置、Deepwater Horizonによる掘削、temporary abandonment、well design、production casing、事故当日の作業状態の確認に使用。
  3. [3] National Academy of Engineering / National Research Council, Macondo Well–Deepwater Horizon Blowout: Lessons for Improving Offshore Drilling Safety 18,360フィートのactual total depth、9 7/8×7インチproduction casing、temporary abandonmentの一般的意味の確認に使用。
  4. [4] BOEMRE / U.S. Coast Guard Joint Safety Alert 事故時の水深4,992フィート、subsea BOP stackの配置の確認に使用。
  1. 01 Deepwater Horizon事故とは何だったのか
  2. 02 Deepwater Horizon事故|水深約1500mのMacondo井では何をしていたのか
  3. 03 Deepwater Horizon事故|セメントと坑井障壁はなぜ破れたのか
  4. 04 Deepwater Horizon事故|陰圧試験はなぜ「成功」と判断されたのか
  5. 05 Deepwater Horizon事故|キックはどう暴噴へ進んだのか
  6. 06 Deepwater Horizon事故|BOPはなぜ最後の壁になれなかったのか
  7. 07 Deepwater Horizon事故|爆発後、126人はどう退避したのか
  8. 08 Deepwater Horizon事故|87日間の流出はどう止められたのか
  9. 09 Deepwater Horizon事故|環境被害はどこまで広がり、何が回復途上なのか
  10. 10 Deepwater Horizon事故|調査は何を問題とし、規制はどう変わったのか

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