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地球を一周した108分――ガガーリンは宇宙で何をしていたのか

ボストーク1号の軌道飛行を題材にした歴史再現イメージ(生成画像)
RCF generated historical reconstruction; not documentary evidence 出典 GENERATED_BY_WORKFLOW

1961年4月12日06:07 UTC。

Vostok 1は打ち上げられた。

約10分後、ロケットによる上昇段階が終わり、ユーリ・ガガーリンを乗せた宇宙船は地球周回軌道を飛び始める。

ここから人類は初めて、

人間が地球周回軌道で生き、行動し、地球へ帰る

という経験をする。

この飛行について、よく使われる数字がある。

108分。

しかし、この108分を「ガガーリンが宇宙で無重量状態だった時間」や「地球を一周するのにかかった時間」と理解すると正確ではない。

Vostok 1には、区別しなければならない三つの時間がある。

総飛行時間――108分。

軌道周期――89分34秒。

無重量状態――約89分。

似ている数字だが、意味は違う。

CASE BRIEFING

CASE080|ユーリ・ガガーリン――人類が初めて宇宙へ飛び出した108分

04では、4月12日02:30 UTCごろの起床から、発射準備、ハッチ密閉確認の問題、06:07 UTCの打上げ、そして軌道投入までを追った。

ここからVostok 1は、ロケットで上昇する機体ではなく、

人間を乗せて地球を周回する宇宙船

になる。

05では、帰還異常が始まる直前までの軌道飛行を追う。

THE QUESTION

地球を一周した飛行の中で、ガガーリンは何を見て、何を行い、地上とどのように連絡していたのか。

QUICK ORIENTATION

  • 打上げ:06:07 UTC
  • 総飛行時間:108分
  • 軌道周期:89分34秒
  • 無重量状態:約89分
  • 最高高度:327km
  • 最低高度:181km
  • 地球周回:1周
  • 07:00 UTC:ソ連が飛行を公表
  • 約07:25 UTC:帰還のための逆噴射開始
  • 逆噴射時間:約42秒
  • この記事の終点:逆噴射後、帰還区画と機器区画を分離する段階へ

STORY SO FAR

ガガーリンは厳しい選抜を経てVostok 1の搭乗者となった。

宇宙船は通常飛行を高度に自動化し、手動操縦をバックアップとして備えていた。

4月12日、搭乗後のハッチ確認問題は発射前に修正された。

06:07 UTC、Vostok 1は離昇。

約10分後、地球周回軌道へ入った。

ここから人類初の有人地球周回飛行そのものが始まる。

CASE PATH

01 開発|宇宙へ人間を送るまで 02 選抜|なぜガガーリンだったのか 03 宇宙船|ボストーク1号はどう飛ぶのか 04 打上げ|1961年4月12日 05 軌道飛行|地球を一周した108分 06 再突入|帰還時に起きた分離異常 07 射出・記録|特殊な着陸とFAI記録 08 その後|108分が残したもの


1|108分は「軌道周期」ではない

まず数字を整理する必要がある。

Vostok 1の飛行は一般に108分とされる。

これは打上げから飛行終了までを表す総飛行時間である。

一方、FAIの記録資料に示される軌道周期は、

89分34秒。

したがって、

「Vostok 1は108分かけて地球を一周した」

と説明すると、総飛行時間と軌道周期が混ざってしまう。

さらにガガーリンが経験した無重量状態は約89分とされる。

整理すると、

108分=ミッション全体

89分34秒=軌道周期

約89分=無重量状態

である。

この三つは同じ数字ではない。

2|地球の上空181~327kmを飛ぶ

Vostok 1は完全な円形軌道を飛んだわけではない。

FAIの記録資料では、最高高度は327km。

最低高度は181km。

つまり地球から常に327kmの高さを飛んでいたわけではない。

軌道には高い部分と低い部分がある。

したがって、

「高度327kmの円軌道を一周した」

という表現も避ける必要がある。

327kmは最高高度である。

3|無重量状態でもガガーリンは行動できた

有人地球周回飛行以前には、人間が本格的な無重量環境でどの程度正常に行動できるのか、実際の経験は限られていた。

Vostok 1が高度に自動化された理由の一つも、そこにある。

ガガーリン自身が正常に行動できなくても、宇宙船が予定された飛行を続けられるようにする。

しかし実際の軌道上で、ガガーリンは意識を保ち、地上との通信を続けた。

自分の状態を報告する。

宇宙船の状態を確認する。

窓の外を見る。

無重量状態を経験する。

人間が軌道上で機能できるということ自体が、Vostok 1の重要な結果だった。

4|窓の外に見えた地球

ガガーリンは飛行中、窓から地球を観察した。

雲。

地表。

地球の曲率。

空と宇宙の境界。

それまで人間が航空機や気球から見てきた地球とは異なる高度からの景色だった。

ただし、後世に作られた映像や再現画像を、ガガーリン自身が撮影した実写写真として扱ってはいけない。

Vostok 1の歴史的重要性は、

人間自身が地球周回軌道から地球を観察した

ことにある。

この記事のアイキャッチ画像も、実際のVostok 1船内写真ではなく、RCFによる再現画像である。

5|宇宙で食べられるのか

軌道上では、ガガーリンは飲食も試した。

これも単なる食事ではない。

無重量状態で人間が食べ物を飲み込み、正常に行動できるのか。

初期有人宇宙飛行では、それ自体が確認対象だった。

現在では宇宙での食事は日常的な活動になっている。

しかし1961年4月12日には、その「日常」はまだ存在していなかった。

Vostok 1は、人間を運ぶだけではなく、

人間が宇宙で人間として機能できるか

を確かめる飛行でもあった。

6|昼から夜へ

Vostok 1は地球を周回する。

そのため、ガガーリンは短い飛行の中で昼側と夜側を経験する。

ESAの飛行時系列では、06:37 UTCごろには日没に関係する段階へ入り、06:49 UTCにはガガーリンが夜側について報告している。

地上では何時間もかけて起きる昼夜の変化を、軌道上では非常に短い間隔で経験する。

その後、再び日の出を迎える。

約108分の飛行の中に、

打上げ、宇宙への到達、日没、夜側、日の出、帰還

が入っていた。

7|宇宙船は自動で飛び続ける

Vostok 1では通常飛行の多くが自動化されていた。

06:51 UTCごろには、帰還へ向けた姿勢制御に関係するシステムが作動する。

宇宙船は、帰還に必要な状態へ準備を進めていく。

ガガーリンはその中で通信と監視を続ける。

ここでも、

「自動飛行だからガガーリンは何もしていない」

とはならない。

宇宙飛行士自身の状態を地上へ報告すること。

宇宙船の状態を確認すること。

宇宙環境で人間が行動できることを示すこと。

それ自体が初飛行の重要な任務だった。

8|07:00 UTC――まだ飛んでいる間に世界へ発表された

07:00 UTC。

ソ連はガガーリンの宇宙飛行を公表した。

重要なのは、

ガガーリンが安全に着陸した後ではない

という点である。

この時点でVostok 1はまだ飛行中だった。

つまり、

「ソ連は成功を確認してから初めて有人飛行を発表した」

という説明は正確ではない。

世界は、人間がまだ宇宙を飛んでいる間に、人類初の有人地球周回飛行が進行していることを知った。

そのニュースが各国へ広がる。

ただし、この発表が米国や世界へ与えた政治的影響は08で扱う。

9|07:10 UTCごろ――再び太陽を見る

Vostok 1は地球の夜側を抜ける。

07:10 UTCごろ、ガガーリンは再び日の出を経験する。

一回の地球周回飛行で、地上とは異なる速度で昼夜が変わる。

人間は初めて、地球そのものを一つの天体として周回しながらその変化を見ていた。

しかし、Vostok 1の目的は「宇宙を見る」だけではない。

地球へ帰らなければ、有人宇宙飛行は成功したことにならない。

飛行は帰還段階へ入る。

10|約07:25 UTC――逆噴射

地球周回軌道から帰還するには速度を落とす必要がある。

約07:25 UTC。

Vostok 1は帰還のための逆噴射(Retrofire)を開始する。

噴射は約42秒。

これによって宇宙船の軌道を変え、大気圏へ入る方向へ導く。

ここで非常に重要な区別がある。

Vostok 1で後に問題になるのは、

逆噴射そのものが失敗したことではない。

逆噴射後に予定されていた、

帰還区画と機器区画の分離

が正常に完了しなかったのである。

したがって、

「帰還用ロケットが故障した」

「逆噴射に失敗して危機に陥った」

という説明にはしない。

逆噴射は行われた。

その後の分離工程で異常が起きた。

11|108分の後半で、予定外の事態が始まる

逆噴射が終われば、本来は03で見た正常シーケンスへ進む。

帰還区画と機器区画を分離する。

ガガーリンのいる球形の帰還区画だけが大気圏へ入る。

しかしVostok 1では、二つの区画が完全には離れなかった。

機械的な分離工程が進んでも、配線束が残った。

二つの区画はつながったまま再突入へ近づく。

ここからは05の軌道飛行ではなく、

06の帰還異常

である。

人類初の有人地球周回飛行は、宇宙へ到達しただけでは終わらない。

最後に、

生きて地球へ戻る

という工程が残っていた。

そして、その帰還は計画どおりには始まらなかった。


VERIFIED|Vostok 1の総飛行時間は108分

打上げから飛行終了までのミッション全体を表す。

FALSE|「Vostok 1の軌道周期は108分だった」

FAIの記録資料に示される軌道周期は89分34秒。

108分は総飛行時間である。

FALSE|「ガガーリンは108分間、無重量状態だった」

無重量状態は約89分。

VERIFIED|最高高度は327km

FAI記録で確認できる。

ただし327kmは最高高度であり、常時327kmを飛んだわけではない。

VERIFIED|最低高度は181km

Vostok 1は181~327kmの範囲を持つ軌道を飛行した。

VERIFIED|ソ連はガガーリンが飛行中の07:00 UTCに発表した

安全な着陸後まで発表を待ったわけではない。

VERIFIED|帰還の逆噴射は約42秒

約07:25 UTCから帰還のための逆噴射が行われた。

FALSE|「逆噴射に失敗して帰還異常が起きた」

問題は逆噴射後の区画分離で発生した。

詳細は06で扱う。

参考資料

[1] European Space Agency, “The flight of Vostok 1.” 軌道飛行中の通信、昼夜の変化、07:00 UTCの公表、帰還準備、約07:25 UTCの逆噴射など、飛行時系列の確認に使用。

[2] Fédération Aéronautique Internationale, “Yuri Gagarin 1961 Record File.” 108分、89分34秒、最高高度327kmなど、Vostok 1の記録値確認に使用。

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CASE080-06|帰還は計画どおりではなかった――ボストーク1号、再突入で起きた分離異常

なぜ読む?

Vostok 1は帰還のための逆噴射を行った。

本来なら、その後に帰還区画と機器区画が完全に分離し、ガガーリンのいる球形カプセルだけが大気圏へ入る。

しかし実際には、二つの区画をつなぐ配線が残った。

約10分。

Vostok 1は完全に分離しないまま再突入へ近づく。

次の記事では、

「逆噴射の失敗」ではないVostok 1最大の帰還異常

を追う。

RELATED FILES

  • CASE080-04|1961年4月12日の朝
  • CASE080-06|再突入で起きた分離異常
  • CASE080-07|なぜ空中で射出されたのか

END ARTICLE 05 / 08

  1. 01 人類はまだ宇宙へ行ったことがなかった――1961年、米ソが争った「最初の一人」
  2. 02 なぜガガーリンだったのか――人類初の宇宙飛行士を選んだ選抜試験
  3. 03 ガガーリンは何を操縦したのか――ボストーク1号という「自動で飛ぶ宇宙船」
  4. 04 1961年4月12日――「Поехали!」から始まった人類初の宇宙飛行
  5. 05 地球を一周した108分――ガガーリンは宇宙で何をしていたのか
  6. 06 帰還は計画どおりではなかった――ボストーク1号、再突入で起きた分離異常
  7. 07 ガガーリンはなぜ空中で射出されたのか――ボストーク1号、その特殊な帰還方法
  8. 08 108分のあと世界は変わった――ガガーリンと宇宙開発競争の次の一手

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