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Enronの利益はどう作られたのか時価評価会計と「将来利益」を先に計上する仕組み

Enronの利益はどう作られたのか|時価評価会計と「将来利益」を先に計上する仕組み

企業不祥事・経済犯罪

10年間続くエネルギー契約を、今日結んだとします。

実際に現金が入ってくるのは、これから何年も先です。

それでも、その契約が将来生み出すと見込まれる利益の一部を、契約を結んだ時点の利益として計上することがあります。

Enron事件で頻繁に登場するmark-to-market accounting(時価評価会計)を理解するには、まずこの「現金が入った時期」と「利益を認識する時期」が一致しないという点を押さえる必要があります。

ただし、最初に重要なことを確認しておきます。

時価評価会計そのものは、Enronが作った違法な会計手法ではありません。

エネルギー・トレーディングやデリバティブの世界では、契約の現在価値を評価し、その変化を損益へ反映する会計処理が使われています。

Enronで問題になったのは、時価評価という考え方そのものではなく、市場価格のない資産や契約をどう評価したのか、その評価をどこまで利益へ反映したのか、価値が下がったときに損失を適切に認識したのかという運用です。

この記事で分かること

  • mark-to-market accountingとは何か
  • 通常の発生主義会計と何が違うのか
  • なぜ契約締結時に利益が発生することがあるのか
  • 実現利益と未実現利益は何が違うのか
  • 市場価格が存在しない契約をどう評価するのか
  • Enronで評価モデルがなぜ重要になったのか
  • SECが問題にした「資産の過大評価」とは何だったのか
  • 時価評価会計と不正会計をなぜ分ける必要があるのか

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Enron崩壊特集(全10回)

第3回では、Enronの数字を理解するうえで重要な時価評価会計を扱います。

第2回で見たように、Enronは長期のエネルギー契約、デリバティブ、価格リスクを大量に扱う企業へ変化しました。その契約価値を現在の損益へ反映するために重要になったのがmark-to-marketです。

なお、第4回で扱うSPE、LJM、Raptorによる損失・資産価値への対応とは分けて整理します。

  1. Enronはなぜ崩壊したのか|巨大エネルギー企業を破綻させた不正会計の全体像
  2. Enronは何の会社だったのか|ガス会社から「エネルギーを取引する会社」へ変わった仕組み
  3. Enronの利益はどう作られたのか|時価評価会計と「将来利益」を先に計上する仕組み 【現在の記事】
  4. Enronは負債と損失をどう見えにくくしたのか|SPE、LJM、Raptorの仕組み
  5. Enron取締役会はなぜ止められなかったのか|Fastowの利益相反と企業統治の失敗
  6. Arthur AndersenはEnronで何をしていたのか|監査、文書破棄、最高裁判決まで
  7. Enronは2001年にどう崩壊したのか|Skilling辞任から12月2日の破産申請まで
  8. Enronの不正はどう解明されたのか|Powers Report、SEC、FBI、Enron Task Forceの捜査
  9. Enron事件で誰が有罪になったのか|Lay、Skilling、Fastowらの刑事責任を整理する
  10. Enron崩壊は何を変えたのか|SOX法、PCAOB、内部統制と企業監査のその後

先に結論|「将来の契約価値」を現在の数字へ反映する

mark-to-marketを最も単純化すると、

「いま、その契約を売却・清算するとしたら、いくらの価値があるのか」

を計算し、その価値の変化を現在の損益へ反映する方法です。

たとえば、ある契約の現在価値が100万ドルだったとします。

市場価格が変化し、次の決算期には120万ドルの価値になったと評価されれば、20万ドルの評価益が発生します。

逆に80万ドルへ下がれば、20万ドルの評価損です。

状態 契約の評価額 損益への影響
契約開始時 100万ドル 基準となる価値
価値上昇 120万ドル 20万ドルの未実現評価益
価値低下 80万ドル 20万ドルの未実現評価損

重要なのは、この20万ドルが必ずしも現金として会社の銀行口座へ入ったわけではないことです。

契約を保有し続けている段階では、あくまで「現在の条件で評価した契約価値」です。

普通の売買と何が違うのか

簡単な商品販売と比較すると違いが分かります。

100円の商品を仕入れ、150円で販売したとします。

商品を顧客へ渡して150円を受け取り、費用が100円なら、50円の利益です。

利益と取引完了の時期が比較的近いため、理解しやすい取引です。

一方、Enronが扱ったようなエネルギー契約では、契約期間が何年にもなる場合があります。

たとえば、

  • 10年間
  • 毎年一定量の天然ガスを供給
  • 固定価格で販売
  • 必要なガスは将来市場から調達

という契約を考えます。

この場合、本当の最終利益が確定するのは10年後です。

天然ガス価格が上がるか下がるかも分かりません。

それでもmark-to-marketでは、契約締結時点や各決算時点で、将来の価格や費用を推定し、契約全体の現在価値を計算します。

例|10年間の契約を今日評価する

仕組みを理解するため、単純化した架空例を使います。

企業AがEnronと10年間のエネルギー供給契約を結び、契約全体で1億ドルを支払うとします。

Enronは、この契約を履行するために必要なエネルギー調達費やその他の費用が、現在の市場予測では合計9000万ドルになると見積もったとします。

項目 推定額
10年間で受け取る契約収入 1億ドル
10年間の推定調達・履行費用 9000万ドル
将来利益の単純差額 1000万ドル

実際には金利や契約リスクなどを考慮して現在価値へ割り引く必要がありますが、ここでは説明のため省略します。

mark-to-marketを適用する取引では、この将来利益の現在価値を契約締結時点で評価し、その一部または全部が会計上の利益として認識されることがあります。

つまり、

まだ10年間のサービスを提供しておらず、現金も大部分を受け取っていないのに、会計上の利益が現在発生する

という状態が起こります。

利益は存在する。しかし現金ではない

ここで、

「現金が入っていないなら偽の利益なのではないか」

と思うかもしれません。

そうではありません。

契約そのものに市場価値があり、その契約を第三者へ売却・移転できるのであれば、現在価値を認識することには経済的な意味があります。

金融機関や商品取引会社では、保有する取引ポジションの価値が毎日変化します。

そのため、取得価格だけで帳簿へ残し続けるより、現在の市場価値を反映した方が会社の経済状態を正確に示せる場合があります。

問題は、

「その現在価値をどこまで客観的に測定できるのか」

です。

市場価格がある場合は比較的分かりやすい

たとえば、翌月に受け渡す天然ガスの先物契約で、同じ条件の商品が活発に市場で取引されているとします。

その場合、取引所やブローカーなどから価格を確認できます。

契約価格が100で、市場価格が110なら、契約に価値が生じていることを比較的客観的に確認できます。

問題が大きくなるのは、同じ契約を市場で簡単に比較できない場合です。

市場価格がないと「モデル」が必要になる

Enronが扱う取引は、すべてが短期の標準商品ではありませんでした。

長期契約や複雑な構造化契約では、

  • 同じ期間
  • 同じ供給地点
  • 同じ数量
  • 同じ価格条件
  • 同じ信用条件

を持つ契約が市場に存在しないことがあります。

その場合、会社は評価モデルを使います。

モデルには、たとえば次のような数字を入力します。

  • 将来の天然ガス価格
  • 将来の電力価格
  • 需要予測
  • 供給量
  • 金利
  • 価格変動率
  • 取引相手の信用力
  • 契約が続く期間

ここにEnron事件を理解する重要なポイントがあります。

現在の利益が、将来について置いた仮定によって変化するのです。

「価格を1ドル変える」と利益も変わる

先ほどの10年間契約をもう一度考えます。

将来のエネルギー調達費を9000万ドルと予測すれば、差額は1000万ドルです。

しかし、より楽観的な価格予測を使い、将来費用を8500万ドルと見積もればどうなるでしょうか。

想定 将来収入 推定費用 差額
慎重な想定 1億ドル 9500万ドル 500万ドル
中間想定 1億ドル 9000万ドル 1000万ドル
楽観的想定 1億ドル 8500万ドル 1500万ドル

同じ契約でも、モデルへ入力する数字によって評価額は変わります。

市場価格が存在しない期間が長くなるほど、モデルの影響は大きくなります。

だからこそ、時価評価会計では、

  • 市場データ
  • 評価モデル
  • 前提条件
  • リスク調整
  • 独立した検証

が重要になります。

Enronでは「現在の現金」と「報告利益」が離れていった

Enronが市場から評価されるためには、利益成長を示し続けることが重要でした。

しかしmark-to-marketで認識された利益の中には、まだ現金化されていないものがあります。

長期契約で1000万ドルの利益を現在認識しても、その1000万ドルが銀行口座に同時に入るわけではありません。

現金は契約期間を通じて回収されていきます。

会計上の利益

  • 契約価値の変化を反映できる
  • 未実現利益を含む場合がある
  • 評価モデルで算出される場合がある
  • 現金収入と時期が一致しないことがある

実際のキャッシュ

  • 契約に従って将来受け取る
  • 取引相手が支払う必要がある
  • 市場環境で最終利益が変わることがある
  • 契約終了まで確定しない部分がある

重要な確認点

  • 利益と現金は同じではない
  • 未実現利益=不正ではない
  • 評価根拠の妥当性が重要
  • 価値低下時の損失認識も必要

この「報告利益は増えているが、その全額が現金として入っているわけではない」という構造は、後にEnronのキャッシュフローが注目される背景にもなりました。

Enronは「利益を滑らかに見せる」別の操作も行っていたとSECは主張した

ここで、mark-to-marketとは別の問題も区別する必要があります。

SECのSkilling・Causeyに対する訴状では、Enron Wholesaleが2000年から2001年にかけて大きなエネルギー取引利益を得た際、そのすべてをその期の利益として報告せず、準備金へ蓄えたとされています。

SECは、この準備金を後の四半期で利用することによって、利益の変動を小さく見せ、アナリスト予想に合わせた数字を作る手段として使ったと主張しました。

つまり、

mark-to-marketによって契約価値を評価する問題

と、

発生した利益をいつ報告するかを操作する問題

は別です。

Enron事件では、複数の会計操作が同時に存在するため、それらをすべて「時価評価会計のせい」とすると実態を見失います。

価値を上げれば利益が増える|Marinerの例

SECが後に問題にした事例の一つが、Enronのmerchant investment portfolioに含まれていたMariner Energyです。

Enronはエネルギー取引だけでなく、さまざまな企業・事業へ投資していました。

これらの投資資産の一部でも、市場価格が簡単に確認できない場合には評価が必要になります。

SECがWesley Colwellに対して提出した訴状では、2000年第4四半期、Enronが利益目標を達成するために追加利益を必要としていたとされています。

SECによれば、Enronの経営陣はMarinerの帳簿価額を約1億ドル引き上げるよう指示しました。

その評価増額によって、Enronはmark-to-market利益を計上しました。

SECは、この1億ドルという増額が正当な評価によって導かれたものではなく、Enronの利益目標を満たすために決められたと主張しています。

ここが、単なる時価評価と不正な評価操作の境目です。

通常の評価 問題となる評価
市場価格や合理的モデルから価値を導く 必要な利益額から資産価値を逆算する
評価額が上がることも下がることもある 利益目標達成のため上昇方向へ調整する
前提の根拠を説明できる 経済的根拠より決算目標が先にある
価値低下も損失として認識する 必要な損失認識を回避・先送りする

Enronの問題を「未来の利益を計上したこと」だけで説明できない理由が、ここにあります。

評価益を守るために「ヘッジ」が必要になる

時価評価した資産は、価値が上がれば利益になります。

しかし翌期に価値が下がれば、今度は損失を認識しなければなりません。

たとえば、インターネット関連企業の株式を保有し、株価上昇によって大きな評価益を認識したとします。

株価が次の四半期に暴落すれば、その評価益は消え、損失が発生します。

そのため企業は、価格下落リスクを抑えるためのヘッジ取引を利用します。

ヘッジそのものも通常の金融実務です。

問題になるのは、そのヘッジ相手が本当にEnronとは独立して損失を負担できる存在だったのかという点です。

この問題から登場するのが、次回扱うLJMとRaptorです。

AVICI|契約日を変えると評価益も変わる

SECがFastowに対して提出した訴状には、AVICI Systemsの株式をめぐる事例も記載されています。

EnronはAVICI株の価格下落リスクをRaptorと呼ばれる仕組みでヘッジしようとしていました。

SECの訴状によれば、このヘッジについて基準日が過去へ遡って設定されました。

選ばれたのは、AVICI株が最高値を付けていた2000年8月3日でした。

SECは、このバックデートによってEnronが本来認識できなかった約7500万ドルの追加mark-to-market利益を計上したと主張しています。

ここでも、問題は「時価評価を使ったこと」ではありません。

評価の基準となる取引条件そのものを操作すれば、結果として出てくる利益も変わります。

値下がりしたら損失を認識すればよい――はずだった

mark-to-marketには、本来対称性があります。

価格上昇なら評価益。

価格下落なら評価損です。

したがって、時価評価会計が常に利益を増やす制度というわけではありません。

むしろ市場価格が急落すれば、大きな損失が一度に表面化する可能性があります。

だから、評価額を定期的に見直し、前提が変化した場合には数字を修正しなければなりません。

Enron事件では、この下方向への再評価をどう扱ったのかが重要な問題になります。

資産価値が下がる。

本来なら損失を認識する。

しかしその損失が発生すると、会社全体の利益目標を達成できなくなる。

そこで、評価を維持する、別部門へ損失を移す、ヘッジを組む、資産を外部へ売却した形にする――複数の手法が利用されていきました。

これらは一つの会計処理ではなく、Enron事件全体にまたがる問題です。

Blockbuster案件は「mark-to-marketだけ」の事件ではない

Enron Broadband Servicesでは、Blockbusterとのビデオ・オン・デマンド事業も大きな問題になりました。

Enronは高速通信網を利用して、家庭へ映画などを配信するサービスを計画していました。

しかし事業はまだ初期段階でした。

SECによると、Project Braveheartと呼ばれた取引では、Blockbusterとの長期契約から将来得られると想定された収入を基礎に事業価値を計算し、その一部を第三者へ売却した形にしました。

これによってEnron Broadband Servicesは、

  • 2000年第4四半期:約5300万ドル
  • 2001年第1四半期:約5800万ドル

合計約1億1100万ドルの利益を認識しました。

SECは後に、この取引には経済的実体がなく、利益計上を目的として作られた取引だったと主張しました。

ただし、これを単純に、

「mark-to-marketを使ったから1億1100万ドルの不正利益が出た」

と説明するのは適切ではありません。

問題は、将来収益を基にした価値評価だけでなく、第三者への売却に実質的なリスク移転があったのか、取引自体に経済的実体があったのかという点にもありました。

「未実現利益」はどのくらい危険なのか

未実現利益が存在すること自体は、異常ではありません。

しかし、会社の利益の多くが未実現評価益で構成されるようになると、読者や投資家が確認すべき項目が増えます。

確認項目 なぜ重要か
市場価格が存在するか 外部から評価額を検証できるか
契約期間 遠い将来ほど予測誤差が大きくなる
評価モデル 入力値によって評価額が変わる
実現キャッシュ 評価利益が実際に現金へ変わっているか
評価損 価値下落を適切に反映しているか
ヘッジ相手 本当に損失を肩代わりできる第三者か

Enronでは、この最後の「ヘッジ相手」が特に重要になります。

FACT CHECK|時価評価会計について誤解しやすいこと

FACT

  • 時価評価会計はEnron独自の制度ではない
  • エネルギー取引契約でGAAP上求められる場合があった
  • 未実現利益・損失が損益へ反映されることがある
  • 市場価格がない場合、評価モデルが必要になる

単純化できない

  • 未実現利益=架空利益ではない
  • 利益とキャッシュフローは同じではない
  • Enron崩壊をMTMだけでは説明できない
  • 2001年の決算修正すべてがMTM問題だったわけではない

Enronでの核心

  • 評価前提は妥当だったか
  • 資産を過大評価していなかったか
  • 損失認識を回避していなかったか
  • 利益目標から評価額を逆算していなかったか

SECは2001年時点で「MTMが決算修正理由」とはしていなかった

ここはEnron事件を説明するときに重要な点です。

Enron破綻直後の2001年12月、SECのChief AccountantであったRobert K. Herdmanは議会証言でmark-to-marketについて説明しました。

その際、Herdmanは、Enronが決算修正を予定していたものの、mark-to-market accountingの問題を理由として財務諸表を修正するとEnronが表明していたわけではないことを明確にしています。

当時問題となっていた決算修正の中心には、SPEを連結対象とすべきだったかどうかなど、別の会計問題がありました。

したがって、

「Enronは時価評価会計を使っていた」

という事実と、

「Enronの財務諸表が不正だった」

という事実の間に、そのままイコールを置くべきではありません。

では、なぜmark-to-marketがEnron事件で重要なのか

それでもmark-to-marketがEnron事件で重要なのには理由があります。

Enronの事業モデルでは、企業価値や利益を説明するうえで、

「将来、この契約・資産はいくらの利益を生むか」

という評価が非常に重要になっていました。

将来の価値を現在へ持ってくるほど、会社の数字は、

  • 現在の現金
  • 現在の販売数量

だけではなく、

  • モデル
  • 予測
  • 経営判断
  • 将来価格
  • 第三者評価

に左右されます。

その数字を検証する内部統制、監査、取締役会が十分に機能していれば、仕組みは管理できます。

しかし利益目標が先に存在し、そこへ数字を合わせるようになれば、モデルは企業価値を測る道具ではなく、利益を作る道具へ変わります。

そして次の問題が生まれる|評価益をどう守るのか

時価評価によって大きな利益を認識した後、資産価格が下落すると、その利益は逆回転します。

100の資産を150と評価して50の利益を認識した。

しかし翌年、価値が80へ落ちれば、大きな損失を認識しなければなりません。

そこでEnronは、保有資産の価格下落から財務諸表を守るために「ヘッジ」を利用しました。

ヘッジ自体は通常のリスク管理です。

問題は、Enronの場合、そのヘッジ相手として登場する組織の一部が、Enron自身の株価や信用力へ強く依存していたことです。

価格が下がったときに損失を引き受けるはずの相手も、Enronが弱くなると同時に弱くなる。

それでは、本当の意味でリスクを外部へ移したことにはなりません。

この仕組みの中心にいたのがCFO Andrew Fastowです。

そして、

  • LJM
  • Raptor
  • SPE

と呼ばれる組織が登場します。

次回は、Enron事件の中でも特に複雑なこの部分を、できるだけ単純な図式に分解します。

要点まとめ

mark-to-market accountingとは、契約や金融商品の現在の公正価値を評価し、その価値の変化を現在の損益へ反映する会計方法です。

したがって、契約が終了して現金をすべて受け取る前でも、未実現利益が会計上の利益になることがあります。

これはEnron独自の違法な会計制度ではありません。

市場価格が存在する金融・商品取引では、現在価値を反映する合理性があります。

しかし長期契約や市場価格の存在しない資産では、将来価格、需要、金利などをモデルで推定する必要があります。

そのため、評価前提を変えれば報告利益も変わります。

SECはEnronについて、利益目標を達成するためmerchant investment portfolioの資産価値を過大評価した事例や、準備金によって利益を操作した事例などを問題にしました。

つまりEnron事件の核心は、

「将来価値を現在の利益へ反映したこと」ではなく、「その将来価値をどのような根拠で決め、その後の価値低下をどう処理したか」

にあります。

そして資産価値が下落したとき、その損失を財務諸表から遠ざけるために重要な役割を果たしたのが、SPE、LJM、Raptorでした。

次回は、その仕組みを扱います。

CASE FILE 36

Enron崩壊特集(全10回)

  1. Enronはなぜ崩壊したのか|巨大エネルギー企業を破綻させた不正会計の全体像
  2. Enronは何の会社だったのか|ガス会社から「エネルギーを取引する会社」へ変わった仕組み
  3. Enronの利益はどう作られたのか|時価評価会計と「将来利益」を先に計上する仕組み 【現在の記事】
  4. Enronは負債と損失をどう見えにくくしたのか|SPE、LJM、Raptorの仕組み
  5. Enron取締役会はなぜ止められなかったのか|Fastowの利益相反と企業統治の失敗
  6. Arthur AndersenはEnronで何をしていたのか|監査、文書破棄、最高裁判決まで
  7. Enronは2001年にどう崩壊したのか|Skilling辞任から12月2日の破産申請まで
  8. Enronの不正はどう解明されたのか|Powers Report、SEC、FBI、Enron Task Forceの捜査
  9. Enron事件で誰が有罪になったのか|Lay、Skilling、Fastowらの刑事責任を整理する
  10. Enron崩壊は何を変えたのか|SOX法、PCAOB、内部統制と企業監査のその後

主な参照資料

※本記事ではmark-to-market accountingそのものを不正会計とは扱っていません。SECは2001年12月の議会証言で、エネルギー・トレーディング契約についてGAAP上mark-to-marketが必要となる場合があることを説明すると同時に、Enronが当時予定していた決算修正がmark-to-market問題を理由とするものだとEnron自身が表明していたわけではないとしています。また、Skilling、Causey、Fastow、Colwellらに関するSEC訴状の記述は「SECが訴状で主張した内容」として扱い、訴状だけを刑事裁判で確定した事実とはしていません。本文中の10年間契約の金額例は会計原理を説明するための架空例であり、実際のEnron取引ではありません。